膵癌は5年生存率が10%に満たない予後不良な疾患である.膵癌細胞では上皮間葉転換(EMT)が起こりやすいとされ,局所浸潤・転移・薬剤耐性を起こしやすい一因とされている.その発現の低下がEMTを介して腫瘍進展に関与する分子としてE-cadherin(Cdh1)に着目し,動物モデルを用いて本研究を実施した. 動物モデルの膵癌におけるCDH1とEMTの機能解析:昨年度に行った研究として,タモキシフェン(TM)誘導性creリコンビナーゼシステムが導入されたPtf1a-creERTマウスをKrasG12D/+マウスと交配したPtf1a-creERT/LSL-KrasG12D/+マウスと,これにCDH1f/fを交配したPtf1a-creERT/Cdh1f/f/LSL-KrasG12D/+マウスを作成し,膵癌の浸潤および転移への影響を検討した.これらのマウスに腫瘍抑制遺伝子であるTp53を欠損させたTp53f/fマウスを掛け合わせ,悪性度がより高い膵癌の動物モデルを用いることで,CDH1の膵癌における役割について更なる解析を行えると考え,解析を行った.結果としては,元々,Ptf1a-creERT/LSL-KrasG12D/+/Tp53f/+マウスおよびPtf1a-creERT/LSL-KrasG12D/+/Tp53f/fマウスは多臓器転移を伴う比較的悪性度の高い膵癌を生じるモデルであったためか,CDH1f/fとの掛け合わせることで生存期間や悪性度などに大きな差は見いだせず,残念ながら有用な知見を得ることは出来なかった.
|