研究課題/領域番号 |
19K17506
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
三長 孝輔 近畿大学, 大学病院, 助教 (30793814)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 慢性膵炎 / 腸内細菌叢 / Akkermansia muciniphila |
研究実績の概要 |
慢性膵炎は持続・反復する膵炎により膵組織が破壊され,徐々に膵内外分泌障害をきたす慢性の進行性疾患であるが病態の理解に基づいた有効な治療法は確立されていない。膵酵素補充療法は,慢性膵炎治療として一定の治療効果があることが知られているが,その機序は解明されていない。 我々は,少量のセルレインとNOD1リガンドのマウス腹腔内投与により慢性膵炎を誘導し,膵酵素の経口投与により慢性膵炎の発症が予防され, 膵臓における炎症性サイトカインの産生が抑制されていることを見出した。腸内細菌叢の解析の結果,腸管常在菌であるAkkermansia muciniphila(A. muciniphila)の腸管からの消失が慢性膵炎の発症を促進し,膵酵素補充療法はA. muciniphilaの腸管への定着を介して慢性膵炎の発症を予防している可能性が示唆された。この知見から,A. muciniphilaに対する免疫反応を介する慢性膵炎の発症抑制機序を解明し,A.muciniphilaに対する免疫反応を用いた慢性膵炎の新規治療法を提案することを目的に研究を行った。A.muciniphilaを培養し,熱処理を行った死菌をマウスに経口投与し,慢性膵炎発症抑制効果を検討した。マウス慢性膵炎を誘導し,膵酵素,A.muciniphilaの死菌を経口投与した結果,死菌または膵酵素投与群では,非投与群に比べて慢性膵炎の発症が抑制されており,特に死菌および膵酵素を同時投与した群において免疫細胞の浸潤の低下および炎症惹起性サイトカイン(I型IFN・IL-33など)の産生が著明に抑制されていた。この結果から,A.muciniphilaの死菌投与により一定の膵炎症抑制効果を認めたが,その効果は膵酵素補充と合わせると顕著に認められ,膵酵素補充とA. muciniphilaが相加的に慢性膵炎発症抑制に働いている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,A. muciniphilaの腸管への定着が実験慢性膵炎モデルの発症に果たす役割を明らかにすることおよびA. muciniphilaの腸管への定着が膵臓の免疫環境および腺房細胞内シグナル伝達経路に及ぼす効果を明らかにすることを目標に実験を行った。 A.muciniphilaを培養し熱処理(70℃, 30分)を行ったA. muciniphilaの死菌をマウスに経口投与し,慢性膵炎発症抑制効果を検討した。少量のセルレインとNOD1リガンドの腹腔内投与によりマウスに慢性膵炎を誘導し,以下の4群を作成し検討を行った。すなわち,①膵酵素・死菌非投与群,②A. muciniphila死菌単独投与群,③膵酵素単独投与群,④死菌および膵酵素の同時投与群の4群において慢性膵炎の抑制効果および免疫細胞,サイトカイン・ケモカインを比較検討した。その結果,②群,③群において①群に比較し慢性膵炎の発症が抑制されていたが,④群では,免疫細胞(T細胞,樹状細胞)の浸潤の低下及び膵炎で代表的な炎症惹起性サイトカインであるI型IFN・IL-33などの産生が著明に抑制されていた。このことは,A. muciniphilaの死菌投与により,一定の膵炎症抑制効果を認めたが,その効果は膵酵素補充と合わせると顕著に認められ,膵酵素補充とA. muciniphilaが相加的に慢性膵炎発症抑制に働いている可能性を示唆する結果と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果を受けて,今後A. muciniphilaが活性化する自然免疫受容体の同定をReporter Gene Assayを行い探索する。Reporter Gene Assayにより自然免疫受容体の候補が見出されれば,その受容体欠損マウスを用いて,A. muciniphilaが膵炎抑制のために活性化する自然免疫受容体を決定したい。さらに,膵臓腺房細胞あるいは樹状細胞特異的に自然免疫受容体を欠損するマウスを用いて本菌が膵炎抑制のために標的とする細胞を同定することを今後の課題とする。 マウスでの実験結果に基づいて代償期・非代償期の慢性膵炎患者の便検体を用いて,次世代シークエンス解析を行い,腸内細菌叢の変化を禁酒や膵酵素補充療法の前後で比較したい。この実験によりA. muciniphila の腸管定着と慢性膵炎の進行度との関係を明らかにしたい。
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