研究課題
日本における閉塞血管のない急性心筋梗塞であるMINOCAの診療実態を明らかにするために循環器疾患診療実態調査(JROAD)のDPCデータベースを用いて、2012年4月1日から2016年3月31日までの間に急性心筋梗塞の診断で入院した137678例を対象に、閉塞血管のある急性心筋梗塞であるMI-CAD 123633例とMINOCA 14045例の患者背景と院内予後を比較した。結果、MINOCAの頻度は10.2%で、MI-CADに比べてMINOCAでは冠危険因子の関連が小さく、心臓以外の併存疾患の関連が大きいことが明らかとなった。院内予後についてはMINOCAがMI-CADと比べて院内死亡の関連因子であることが明らかとなり、予後良好である欧米からの報告と相反する結果であった。MINOCAの中で冠攣縮が関与するものは11.7%に認め、院内死亡のHRは0.27(0.15-0.48)と低かった。また、たこつぼ型心筋症によるものもHR 0.49 (0.31-0.76)と低かったが、心筋炎によるものや大動脈解離を伴うものは、それぞれHR 2.45 (1.52-3.95), HR 2.15 (1.49-3.10)と高かったことから、院内死亡のリスクはMINOCAの病因によるものと推察された。またMINOCAの危険因子として環境要因である大気汚染との関連を同データベースを用いてケースクロスオーバーデザイン法で解析した。結果、黄砂の短期曝露とMINOCAの入院が有意に関連していること、またPM2.5の短期曝露とAMIの入院が有意に関連していることが分かったが、より低濃度のPM2.5の曝露とMINOCAの入院に有意な関連があることが明らかとなった。このように従来のAMI, MI-CADと異なり、MINOCAは多様な病因から成り立ち、また環境要因が強く関連する病態であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
DPCデータベースの解析により、日本におけるMINOCAの実態が明らかにでき、上記の研究結果は、International Journal of Cardiology誌、European Journal of Epidemiology誌、European Journal of Preventive Cardiology誌に報告することができた。またMINOCAのDPC診断アルゴリズムについてもネスティッドケースコントロールデザインで診断精度を検証し、上記の雑誌で報告できている。
今後、MINOCA患者の検体を用いてプロテオミクス解析を検討しているが、上記の研究結果よりMINOCAの病因が多様であることから、バイオマーカー発現のばらつきが想定される。そのため、ばらつきを抑えるためにMINOCAの病因を冠攣縮に限定し、解析を行うことを予定している。しかしながらMINOCAの割合はAMI患者の約10%程度であり、さらに冠攣縮に限定すると、単施設での前向き登録研究では、サンプルサイズが少なくなり、検出力が低下する可能性があることから、バイオマーカー開発コホートとして熊本大学医学部附属病院循環器内科の他研究で保存している検体の二次利用を行い、検証コホートは、同集団のリサンプリング法での検証を検討している。
本年度の使用予定の消耗品購入費が次年度に計画変更となったため
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
International Journal of Cardiology
巻: 301 ページ: 108~113
10.1016/j.ijcard.2019.09.037
European Journal of Epidemiology
巻: in press ページ: in press
10.1007/s10654-020-00601-y
European Journal of Preventive Cardiology
10.1177/2047487320904641