本研究の目的は、心不全における心と腸の関連を探究し、腸内細菌叢の機能異常が心不全の病態生理において果たす役割を解明することである。腸内細菌叢は極めて多様な代謝物質を産生し、宿主の恒常性維持に重要な役割を果たしている。腸内細菌叢の構成異常が幅広い疾患の病態に密接に関与していることが、メタゲノム解析および腸内細菌叢移植の研究から明らかになってきている。 本研究では、心不全における腸内細菌の代謝物質の役割を解明するために、心不全モデルマウスの腸内細菌叢への介入を行った。心不全モデルマウスに4種類の抗生物質を経口摂取させて腸内細菌叢を喪失させると、心肥大が軽減して死亡率が低下することを見出した。さらに、心不全でない正常対照マウスに4種類の抗生物質を経口摂取させると心筋細胞が縮小して心重量が減少すること、およびマウスに1種類の抗生物質を経口摂取させるだけで心重量が減少することも発見した。マウス心臓の遺伝子発現解析を行ったところ、抗生物質の経口投与によって心臓の遺伝子発現プロファイルに大きな変化が見られることが明らかになった。また、マウス糞便の代謝物質解析を行い、抗生物質を経口摂取させたマウスだけでなく心不全モデルマウスでも腸内代謝物質プロファイルが変化することを見出した。これらの結果から、腸内細菌叢が代謝物質を介して心臓の遺伝子発現を制御して心臓の形態に影響を及ぼしている可能性が考えられた。
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