肺高血圧症患者では、右心機能が予後を規定する重要な因子である。本研究では、肺高血圧モデル動物をもちいて、①心臓MRIを用いた形態学的変化、②組織学的変化、③多細胞心室筋を用いた生理学的変化、④心室筋ミトコンドリア内カルシウムとATP産生の変化を観察することにより、肺動脈圧の上昇によって右心室機能が低下する機序の解明を目指している。 肺高血圧モデルのラット(モノクロタリン皮下注後4週間)と対照ラットとを作成し、7-T小動物高磁場MRI装置を用いて心臓シネ画像を撮影した。肺高血圧モデルラットは対照ラットと比較し、右室駆出率(RVEF)、右室長軸ストレイン(RVLS)が低下していた。肺高血圧モデルラットでは、右室収縮期圧が高く右室肥大が進行していた。 右室から多細胞心室筋を摘出し、発生張力(F)および心筋収縮力としてdF/dtを測定したところ、肺高血圧モデルラットは発生張力、dF/dtが低下していた。さらに、RVLSはRVEFよりもdF/dtと相関がみられた。また、MCTラットにおいては、SERCA・RyRなどの収縮関連タンパクの発現が増加し、また、ミトコンドリアカルシウムユニポーターの発現も増加していた。 肺高血圧モデルラットでは、右室円周方向ストレイン(RVCS)が上昇している群、低下している群とに分けられ、エンドセリン-1による右室圧を上昇させると、上昇している群では、RVCSが変化しないものの、低下している群ではRVCSがさらに低下し、それぞれの群で異なる結果を示した。これらの結果は、RVCSが右室の予備力を示しうると考えられる。 MCUノックアウトマウスを用いて、ミトコンドリアカルシウムと収縮の関係性について検討するため、現在、ミトコンドリアカルシウム輸送タンパク(MCU)ノックアウトマウスを作成し、肺高血圧モデル動物を作成する予定である。
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