多能性幹細胞由来心筋細胞移植による傷害心臓の機能回復が報告されているが、幹細胞由来心筋細胞は未熟性・多様性を示し、不十分な治療効果や心室性不整脈の発症といった課題が残されている。これらの課題を解決するためには、心筋細胞の分化・成熟化のメカニズムと細胞移植による傷害心筋修復機構を解明する必要がある。 本研究において、ヒトES細胞由来心筋細胞をラット心臓へ移植し、細胞特性の時系列変化を組織学的および分子生物学的に解析した。特に生着した心筋細胞からLaser microdissectionを用いて微量RNAを抽出し、in vitroでの長期培養心筋と比較したRNAシークエンス解析を行い、in vivoにおける生着心筋の網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、生着した移植心筋グラフトにおいて、培養環境と比較して自動能を持ったペースメーカー細胞の割合および自動能に関わる遺伝子の発現が低下し、相対的に成熟した心室筋の割合が増加することを報告した。 大動物における移植後不整脈は自動能を持った移植心筋からの異所性ペーシングが原因であると複数のグループから最近報告があり、今回明らかになったin vivoにおける生着心筋細胞の特性変化は、不整脈が移植1ヵ月後をピークとして徐々に減少するメカニズムの1つであると考えられた。今後、ペースメーカー細胞の割合を減らした場合や、成熟させた心筋を移植した場合に、不整脈の出現が実際に減少するかを大動物を用いた実験で検証する必要がある。
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