研究課題/領域番号 |
19K17555
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小林 秀樹 信州大学, 医学部附属病院, 助教(診療) (90794389)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 再生医療 / iPS細胞由来心筋細胞 / 細胞移植 / 不整脈 |
研究実績の概要 |
本実験に先立ち,実験のプロトコールを確立する目的で,カニクイザル1頭を用いて,予備実験を行った.移植2週間前に全身麻酔下で開胸し,左冠動脈前下行枝中部を一時的に結紮し,心筋梗塞モデルを作製した.また,ヒトiPS由来の純化心室筋細胞を培養しておき,心筋梗塞部位周辺に細胞移植を行った.移植後1か月目で,カニクイザルを安楽死させ,心臓を摘出した.組織学的には,心筋梗塞内にサルコメア構造を呈した心筋細胞の生着が確認された.生着した細胞は,トロポニンI陽性,MLC2v陽性, MLC2a陰性であり,純化した心室筋細胞の特徴を備えていた.また,生着した組織内に,心房筋細胞やペースメーカ細胞は確認されなかった. 施行したホルター心電図検査では,移植後4日目で最長55分持続する心室頻拍の出現を認めたが,移植後1週間目ではそうした頻拍は減少傾向となり,以降は全く見られなくなっていた.また,心エコー図検査,マイクロCT検査を移植前後で施行したが,左室収縮能の明らかな改善は認められなかった. 予備実験において,大きな問題はなかったため,引き続き本実験を開始した.解析はまだ途中であるが,純化心室筋細胞群に割り付けたカニクイザルにおいては,心筋細胞移植後の不整脈はほとんど認められなかった. 過去の論文では,幹細胞由来心筋細胞移植により,再現性をもって移植後心室頻拍が出現することが報告されている.本実験では,純度の高い心室筋細胞の移植に成功しており,移植後の不整脈もほとんど認めていない。これは,「純度の高い心室筋細胞のみを移植することで,移植後に生じる不整脈を抑制できる」とした当初の仮説を裏付ける結果となっていた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カニクイザル1頭を用いて,予備実験を行い,実験のプロトコールを確立した.引き続いて,15頭のカニクイザルを,純化した心室筋細胞のみの細胞群,従来通りの培地・分化方法により,心室筋細胞とペースメーカ細胞が混在した細胞群および,生理食塩水のみを移植するコントロール群の3群に,それぞれ5頭ずつ割り付け,実験を開始した. 12頭で実験を完遂したが,心筋梗塞モデルの作製ができなかった個体や心筋細胞移植前に突然死してしまった個体が生じたため,追加で実験を行う必要があると判断した. 全体の解析はまだ途中ではあるが,純化心室筋細胞群に割り付けたカニクイザルにおいては,心筋細胞移植後の不整脈ほとんど認められていなかった.
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今後の研究の推進方策 |
心筋梗塞モデル不成立や突然死してしまった個体が生じたため,追加で実験を行う必要がある.また,移植した細胞の組織学的評価や移植後不整脈の評価についての解析を,プロトコールに沿って,順次進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒト特異的な抗体や心筋分化の度合に関連する抗体のうち一部のみを購入したため,想定していた金額と差額が生じた. 解析において,必要な抗体は他にも複数あるため,上記の差額を次年度使用額として,これらの購入費に充てる予定である.
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