研究課題
本研究において、まずはヒトiPS由来分化心筋(human induced pluripotent stem cells derived cardiomyocytes: hiPSC-CMs)についての精密な数理モデルを作成することから始めた。その結果、今回のモデルによって多様な活動電位波形(action potentials: APs)を再現可能であり、またhiPSC-CMsの重要な特性である自動能に関して複数のイオンチャネルによる機転が関与していることが判明した。ペースメーカー機転については陽イオンバックグラウンド電流やIKrをメインの動力とした機転に、ペースメーカー電流(funny current: If or hyperrepolarization activation current: Iha)やINa, ICaLが二次的に修飾する事により自動能を有する心筋細胞全体に対して統一した説明が可能となった。さらに、GPUワークステーションを使用してhiPSC-CMs APsに関するもう一つの重要な特性である波形の多様性について、数理最適化を用いた波形フィッティングアルゴリズムを開発し、それを用いることで再現が可能であることを突き止めた。既報ではこれまで局所解が生じる可能性が問題とされていたが、Model to Modelの実験により、生理学的な知見を十分に用いることでこの問題に対処しうること、またmetaheuristicな手法とgradient baseの手法を組み合わせることで精度の向上と計算量の低減が両立しうることが分かった。この成果について、現在PLoS Computer Biology誌に投稿中である。
3: やや遅れている
本研究は立命館大学 生命情報学科との共同研究を基本としていたが、COVID-19の感染拡大によりミーティングの回数に制限が生じたこと、また世界的な半導体不足によりワークステーションの納期が遅れたこと等が原因で進捗には若干の遅れが認められた。
GPUコンピューティングを用いた並列計算系への移行・計算速度の向上を行い、実際の実験結果をリアルタイムで解析する系へと拡張予定である。システムについてwetの実験結果と照合し、妥当性が担保されているかどうかを検証しながら進める必要がある。 並列計算のコーディング・検証が完了した後に、単一細胞モデルから、細胞直列モデル・2 次元シートモデル・3 次元モデルに拡張を行い、現在 high through-put な薬剤試験系として用いられている多点電極アレイ(Multi Electrode Array: MEA)システムでの実験結果の評価に使用できるシミュレーションモデルを構 築、創薬への応用・遺伝性心疾患の新規治療法の開発を行う。 遺伝性不整脈疾患モデルの解析については更に多くの遺伝子変異に対して行う。我々の所持している疾患特異的iPS由来分化心筋の中で特にシミュレーションモ デルによる解析を要すると考えられるもの(機序の複雑なもの・単細胞のみでは疾患機序が特定できないもの・hiPSC-CMsの性質のばらつきが特に大きいものな ど)に対して順次疾患特異的シミュレーションモデルを構築し、それぞれに対して定量的なin-silico drug testingを行い、効率の良いdrug discoveryに寄与す る。現在投稿中の論文について早期に出版を行い、次の解析の基盤とする予定である。
COVID-19の感染拡大により学会活動の頻度が減少し、また半導体不足により各種機材の納期に遅延を生じたため。
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