組織局所のレニン-アンジオテンシン(R-A)系,特に1型アンジオテンシン受容体(AT1受容体)の過剰な活性化は,生活習慣病および関連臓器障害の発症・進展に関与する.本研究では,AT1受容体への直接結合因子であるATRAP(AT1 receptor-associated protein) について,「白血球・免疫細胞におけるATRAP発現調節異常が,生活習慣病および臓器障害の発症・進展に関与し,白血球・免疫細胞でのATRAPの発現レベルの制御により生活習慣病および臓器障害を改善できる」との仮説を検証するため,生活習慣病モデル動物,ATRAP遺伝子改変動物およびヒト白血球検体などを用いて,生活習慣病関連臓器障害の発症・進展における白血球・免疫細胞でのATRAPの病態生理学的意義を生体レベルで明らかにし,ATRAPに着目した新規分子標的治療開発に向けた多面的な基礎的知見を得ることを目指す.骨髄ATRAPノックアウトキメラマウスを作製して,高脂肪食負荷を行ったところ,骨髄ATRAPノックアウトキメラマウスでは骨髄野生型キメラマウスと比較して,高脂肪食負荷による体重増加および内臓脂肪重量増加が有意に抑制された.さらに,骨髄ATRAPノックアウトキメラマウス高脂肪食負荷群では,野生型キメラマウス高脂肪食負荷群と比較して,脂肪細胞の肥大化,脂肪組織における炎症が有意に抑制された.すなわち,白血球でATRAPを欠損すると,予想に反して,内臓脂肪型肥満が軽減する可能性が示唆された.白血球でのAT1受容体情報伝達系の活性化は,内臓脂肪型肥満に対して抑制性に作用している可能性がある。
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