研究課題
本研究の目的は、Advanced therapyの対象となる重症心不全患者を対象として、心不全に合併した他臓器障害(腎機能障害、サルコペニア等)が治療開始後にどの程度改善するかを明らかとし、Advanced therapy導入前に臓器機能障害の可逆性を判断する方法を確立することである。本研究は、国立循環器病研究センターにおける補助人工心臓・心臓移植症例を対象として後ろ向きおよび前向き観察研究を行っている。現在に至るまで過去の症例および前向き登録症例を対象として、上記検討に必要な臨床情報を収集し、解析を行っている。2020年に重症心不全患者の尿クレアチニン排泄量が補助人工心臓装着後の臨床転帰と関連があることを報告した(Circ J. 2020 Oct 23;84(11):1949-1956. doi: 10.1253/circj.CJ-20-0238.)。クレアチニンは筋肉から発生する代謝物で、排泄を腎機能に依存することから腎機能指標として頻繁に用いられるが、時間当たりのクレアチニン産生量は体内の筋肉量と相関するため、尿クレアチニン排泄量はサルコペニアの指標として有用である。本研究においては、植込型補助人工心臓装着前の重症心不全患者におけるクレアチニン排泄量がCT計測上の筋肉量と有意に相関し、また植込型補助人工心臓装着後の頭蓋内出血と有意に関連していることを報告した。また、同年に重症心不全患者の血小板数が植込型補助人工心臓装着後の再開胸を要する出血と有意に関連していることを報告した(Circ J. 2020 Oct 23;84(11):1949-1956. doi: 10.1253/circj.CJ-20-0238.)。
3: やや遅れている
補助人工心臓・心臓移植症例を対象として後ろ向きおよび前向き観察研究からの解析で、補助人工心臓治療対象となった重症心不全患者におけるサルコペニアおよび血液凝固に関する文献報告を行っており、サルコペニアおよび血液凝固に関する分野の検討は当初の計画以上に進捗している。しかし、腎機能障害、肝機能障害等他の臓器障害に関する分野は情報収集、解析、論文化を行っている段階であり、進捗はやや遅れている。また、過去の症例に関する臨床情報収集はおおむね終了しているが、当該研究者の施設異動に伴い前向きの新規症例登録は難航している。また、2020年のヨーロッパ心臓病学会および国際心肺移植学会で予定していたが、世界的なコロナ感染流行に伴い学会報告を中止した。上記状況を総合的に判断し、本研究の進捗状況は「やや遅れている」と考える。
2020年までに報告した研究結果に加えて、現在までに収集した臨床情報を解析し論文化を予定している。具体的には、植込型補助人工心臓治療前の特定の尿検査と腎機能変化が有意な関連があることが現在までの解析から示唆されており、現在論文化を目指している。
2020年のヨーロッパ心臓病学会および国際心肺移植学会等の出張旅費および症例登録に係る経費を計上していたが、世界的なコロナ感染流行に伴い学会報告の中止、また、症例登録の遅延等のため、経費を翌年繰り越しとした。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Circ J
巻: 84(6) ページ: 949-957
10.1253/circj.CJ-19-0930
巻: 84(11) ページ: 1949-1956
10.1253/circj.CJ-20-0238