研究課題/領域番号 |
19K17583
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
錦織 充広 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, オープンイノベーションセンター, 特任研究員 (00633645)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エクソソーム / 心不全 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
日本では慢性心不全患者が急増しており、重症化した場合は予後不良となるため、早期介入と改善、重症化防止が不可欠である。その実現のため、迅速かつ高精度な重症度評価・予後予測法の開発が急務である。近年、様々な細胞が分泌するエクソソームが疾患病態を反映する非侵襲的マーカーとして利用できる可能性が示されてきた。そこで本研究では、心不全マウスの心筋組織から放出されるエクソソーム中のタンパク質・遺伝子より、心不全の病態を反映し重症度や予後予測などに利用可能な新規バイオマーカーを発見することを目的とする。心筋組織、血液から回収したエクソソームのオミックス解析情報を基盤として、心臓由来のエクソソームに特異的なマーカー分子を見出す。有望なマーカー分子については心不全患者の血液での測定、臨床情報や予後との相関解析を実施し、臨床応用を目指す。 本年度は、まず、心筋組織より放出されるエクソソームの回収法を検討した。マウスの心筋組織を細分化し、培地中で24時間静置した。その後、回収した培地から市販のエクソソーム精製キットを用いてエクソソームを回収した。得られたエクソソームのプロテオーム解析を行った結果、数百種類のタンパク質を同定することに成功した。エクソソームの精製純度に関しては、CD9などのエクソソームマーカーを認識する抗体を用いたウェスタンブロット、またはプロテオーム解析で同定されたタンパク質のエクソソームデータベースとの一致率により評価した。また、仔ラットより調製した初代培養心筋細胞の培養上清を回収し、同様にエクソソーム回収を実施した。培養液中のブロッキング剤の濃度や種類を検討し、エクソソームを効率的に回収できる条件を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
心筋組織や血液から効率的にエクソソームを回収する方法については確立することができた。また、エクソソームのプロテオーム解析に関しても、基本的な解析方法を確立することができた。さらに、従来使用していたSCIEX社の質量分析計からBruker社の最新の質量分析計での解析に変更することで、1.5倍程度のタンパク質同定数が得られることも明らかとなった。一方で、エクソソームから精製したmiRNAのシークエンス解析については十分に実施することは出来なかった。まず、血液試料からエクソソームを精製した後、miRNAを回収する方法を検討した。miRNAの回収量についてはmiRCURYシステムを用いて評価を行ったが、当初、解析に十分なmiRNA量を確保することが出来なかった。そこで、サンプルの出発量やmiRNA精製キットの比較、精製時に用いるDNaseの反応条件を検討行った。この際、従来のqPCR法よりもデジタルPCR法を用いることで、より正確な定量が可能であることが明らかとなった。最終的にmiRNA-Seqでのパイロット的な測定を実施し、エクソソームから抽出したmiRNAで十分なリード数を得ることができ、解析可能であることを確認した。特にmiRNAでの解析条件の検討に想定よりも多くの時間が掛かったことを踏まえて、本研究は、やや遅れていると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は令和2年度より所属機関が福岡大学に変更となり、今後はミトコンドリアの機能や形態変化に関する研究に従事することとなった。ミトコンドリアはエネルギー産生を担う重要な細胞内小器官であり、心不全の多くの症例でエネルギー産生の低下やミトコンドリアのクリステ構造の変性などが起こっていることが明らかとなっており、研究代表者もこれまでの研究で確認している。そこで、次年度は心不全におけるミトコンドリアの異常に焦点を当てた解析を実施する。細胞内小器官からエクソソームが放出されるという報告はいくつかあり、ミトコンドリアからエクソソームと同様の細胞外小胞が放出される可能性は高い。心不全時に放出されるエクソソーム中に含まれるタンパク質や遺伝子の中に、ミトコンドリア関連タンパク質やミトコンドリアDNAの断片などを検出することが可能となれば、ミトコンドリアの変性やエネルギー産生低下を反映した新たな心不全マーカーを見出すことが可能になると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はmiRNAシークエンスの条件検討に時間がかかり、当初予定していた解析試薬などを購入しなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は研究代表者の所属が変更となり、ミトコンドリアに焦点を当てた解析を実施することになったため、当該助成金は新しい所属先で継続して研究を実施可能とするための小型機器や試薬、消耗品の購入費用に当てる予定である。
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