日本では慢性心不全患者が急増しており、重症化した場合は予後不良となるため、早期介入と改善、重症化防止が不可欠である。その実現のため、迅速かつ高精度な重症度評価・予後予測法の開発が急務である。本研究では、心不全マウスの心筋組織から放出されるエクソソーム中のタンパク質・遺伝子より、心不全の病態を反映し重症度や予後予測などに利用可能な新規バイオマーカーを発見することを目的とする。前年度までに、心筋組織、培養細胞より放出されるエクソソームの回収法を確立し、プロテオーム解析を行った結果、数百種類のタンパク質を同定することに成功した。また、エクソソーム中のmiRNAの抽出法を検討し、特異的がmiRNAを検出可能なことを確認した。 本年度は、研究代表者が福岡大学に異動となり、今後はミトコンドリアの機能や形態変化に関する研究に従事することとなった。ミトコンドリアはエネルギー産生を担う重要な細胞内小器官であり、心不全の多くの症例でエネルギー産生の低下やミトコンドリアのクリステ構造の変性などが起こっていることが研究代表者のこれまでの研究で明らかとなっている。そこで、心不全におけるミトコンドリアの異常に焦点を当てた解析を推進した。 培養細胞への脱共役剤の添加によりミトコンドリアの機能障害を誘発し、ミトコンドリアの形態を免疫染色により観察した結果、ミトコンドリアの断片化が観測された。そこでミトコンドリアの形態変化に関連するタンパク質の発現について検証した結果、ミトコンドリア融合に関連するタンパク質の切断が確認された。一方、過酸化水素により細胞に酸化ストレスを与えたところ、アポトーシスの促進が観測された。この結果から、心不全においては酸化ストレスの増加により、アポトーシスが促進し、心筋機能の低下を引き起こす可能性が示唆された。
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