腹部大動脈瘤は、近年人口の高齢化に伴い増加しており、大動脈瘤が破裂した場合の死亡率は60%以上と高く、予後不良な疾患である。腹部大動脈瘤の治療は、外科的手術が第一選択肢であるが、有効な薬物治療は未だ確立していない。大動脈瘤の発生と進展には動脈硬化に加え、大動脈壁の炎症や粥状硬化による脆弱化が関与している。近年、血管平滑筋細胞のDNA傷害が、細胞の老化やアポトーシス、炎症を惹起し、血管プラークの形成促進や不安定化を起こすことが報告された。これまでDNA傷害と腹部大動脈瘤の関係は十分には検討されていない。 過剰なDNA傷害が発生した場合、DNA傷害応答が生じる。このDNA傷害応答の中核を担う酵素としてATMが知られている。 待期手術患者の腹部大動脈瘤と正常大動脈の組織を用い、DNA障のマーカーγH2AXとDNA傷害応答のマーカーリン酸化ATMを免疫染色により発現を評価する。 アポE欠損マウスにアンジオテンシンII (Ang II) (1000 ng/kg/min)を浸透圧ミニポンプで、4週間皮下投与し腹部大動脈瘤モデルを作成し、γH2AXとリン酸化ATMの発現を評価する。細胞老化マーカーであるsenescence-associated β-galactosidase (SA-β-gal)を組織の免疫染色法で評価する。ATM阻害剤が血管平滑筋細胞の老化に与える影響について検討する。ATM阻害剤が腹部大動脈の形成および破裂を抑制するか、検討する。
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