研究課題
本研究では一細胞レベルでの細胞系譜追跡を可能にするPolyloxマウスを用いて、心筋梗塞後に心筋及び非心筋細胞に生じる経時的遺伝子発現応答変化,細胞間系譜変化を一細胞レベルで同時に解析して明らかにすることを目的としている。初年度ではまず研究の要であるPolyloxマウス(米国より供与)の繁殖を進めた後、Rosa26-CreERT2とのかけ合わせによって全身性にタモキシフェンによってPolyloxカセットを誘導できるようにした。また、PCRによる効率の良いPolyloxカセットの検知条件を確立したので、実際に単一の細胞からPolyloxカセットを増幅し、そのシークエンスを行うことが可能となった。2019年の間に技術的な進歩により、空間的位置情報を保った状態でシングルセルレベルの解析(Spatial transcriptomics)が徐々に可能となり、今後のシングルセル解析分野における重要な発展の方向性の一つとなっている。本研究では元々系譜追跡を目標にしていたが、心筋梗塞後における心不全の病態解明を進める上では、こうしたSpatial transcriptomicsの解析を適応する意義は大きいため、こちらに対しても積極的に検討してきた。その結果、実際にマウスの心筋梗塞後の心臓を用いてSpatial transcriptomicsの実験を行い、現在シークエンスに提出している。最後に本研究は一細胞解析の技術を主に利用しているが、昨年はヒト心不全患者の心臓検体を用いた一細胞解析研究から、患者の予後を予測する上で心筋細胞におけるDNA damageが重要なバイオマーカーとなりうることを発見し、論文報告した。(JACC Basic Transl Sci. 2019; 4(6): 670-680.)
2: おおむね順調に進展している
本研究で最も難しいのは一細胞レベルで細胞の系譜を知るためのPolyloxカセットを増幅させてシークエンスすることであるが、繰り返し条件検討を行うことにより、PCR法で効率よく増幅させることができるようになった。但し系譜追跡の際、異なるクローンを証明するためにどれほどの細胞数を一度に解析する必要があるかは今一度慎重に検討が必要であり、それによって今後single cell RNA-seq(+Polyloxカセットのシークエンス)を行う際に利用するツールが異なってくる。
引き続き一細胞レベルでのRNA-seqとPolyloxカセットの検出のための条件検討を行いつつ、実際にどのような一細胞解析ツール(Plate法, 10XGenomics社の製品に代表されるようなDrop-seq法, iCell8等)を用いるかを決めていく。また、昨年度の1年間で急激にSpatial transcriptomicsの技術進歩が進み、本研究でも既にマウス心筋梗塞モデルを用いて解析を進めつつあるので、そちらの方も同時に進めていき、空間的分布に伴う各種細胞の差異を明らかにしていきたい。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
JACC: Basic to Translational Science
巻: 4(6) ページ: 670-680
10.1016