研究課題
Follistatin-like 1(FSTL-1)は、細胞死抑制作用や抗炎症作用を介して心臓保護的に働くことが示されている。一方、オートタキシン(ATX)は、リゾホスファチジン酸(LPA)の生成を通じて、心筋の炎症とそれに続く心臓のリモデリングを促進することが報告されている。研究代表者らは、拡張型心筋症(DCM)患者104名(49.8歳、男性76人)における血清ATX濃度と予後との関連を検討した。血清ATXレベルには性差が報告されているため、男性・女性それぞれの血清ATXレベルの中央値を使用して、被験者を2つの群(高ATX群と低ATX群)に分類した。心不全悪化による入院と心臓死の複合イベントを主要アウトカムと定義した。被験者の89%は、NYHA心機能分類IまたはII度であった。女性患者の血清ATXレベルは男性患者よりも高値であった。左室駆出率および脳性ナトリウム利尿ペプチドレベルは、それぞれ平均30.6%、122.5pg/mLあった。生存分析では、累積イベント回避率は高ATX群で有意に低かった。コックス比例ハザード分析では、High-ATXは複合心臓イベントの独立した予測因子の1つであった。一方、血清ATX濃度は、心筋組織における線維化率や高感度C反応蛋白レベルとの相関は認めなかった。本研究の成果は、NYHA心機能分類の低い軽症な心不全症状を有するDCM患者においても、血清ATX濃度が予後層別化に有用な可能性があり、DCMの早期治療におけるマーカーあるいはターゲットとなる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者らはこれまでに、細胞死抑制作用や抗炎症作用を介して心臓保護的に働くFSTL-1に着目し、DCM患者における血中FSTL-1の経心臓濃度差と心イベントとの関連を示した。今回、心筋の炎症とそれに続く心臓のリモデリングのマーカーとしてのATXに着目し、血中ATX濃度と心イベントとの関連を示した。このため、本研究課題の進捗はおおむね順調に進行していると考えるが、成果の公表とさらなる課題の追求のため、1年の研究期間延長を行った。
研究代表者らは、これまでDCM患者における経心臓FSTL-1濃度差と臨床予後との関連を示した。また、生体の炎症を反映する高ATX濃度がDCM患者の不良な予後と関連していることを示した。さらなる症例数の確保を進め、成果を纏めたのち、学会発表や論文等で公表する。
昨年度は、拡張型心筋症における経心臓FSTL-1濃度差とバイオマーカーあるいは血行動態指標との関連を検討し、予後との関連を示した。本年度は生体炎症の指標とされる血清ATX濃度と血液データ、心エコー図データ、血行動態指標との関連を検討し、臨床予後との関連を発表した。しかしながらいずれの報告も現在論文投稿中であり、研究成果を公表できていない。また現在、心筋の構造的解析のためのさらなる症例数確保を進めている段階にある。このため、同解析および研究成果公表のための未使用額が生じた。(使用計画)上記理由により、さらなる検討症例数の確保を行うとともに、これまでの成果を学会や論文等で広く公表していく予定である。繰り越し費用はこれに充てる。
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