研究実績の概要 |
オートタキシン(autotaxin, ATX)は、リゾホスファチジン酸の産生を介して、心筋の炎症、線維化およびそれに続く心臓のリモデリングを促進する。本研究では、非虚血性拡張型心筋症(non-ischemic dilated cardiomyopathy, NIDCM)患者における血清ATX値と心イベントとの関連を検討した。NIDCM患者104名(年齢49.8±13.4歳、男性76例)を対象とした。ATX値には性差が報じられていることから、男女それぞれの血清ATX中央値を用いて、ATX高値群とATX低値群に分類した。心イベントは、心臓死と心不全入院の複合エンドポイントとして定義した。全患者におけるATX値の中央値は、男性で203.5 ng/mL,女性で257.0 ng/mLであった。脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide,BNP)値は、ATX高値群においてより高値であったのに対し(224.0 [59.6-689.5] pg/mL vs 96.5 [40.8-191.5] pg/mL,p=0.010)、高感度C反応性タンパク値および心筋生検検体における線維化率は,両群間に有意差を認めなかった。生存解析では、イベント発生率がATX低値群よりもATX高値群で有意に高かった(Log-rank: p=0.007)。COX比例ハザード分析では、ATX高値が複合心イベントの独立した決定因子であった。血清ATX高値は、NIDCM患者の不良な臨床予後と関連することが示された。本結果は、血清ATX値がNIDCMの新規バイオマーカーまたは治療標的となる可能性があることを示唆している。
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