研究実績の概要 |
早期再分極症候群(Early repolarization syndrome, ERS)は、心電図上の早期再分極(J点上昇)と心室細動を特徴とする疾患であり、若年性心臓突然死の一因である。比較的新しい疾患概念であり、その病態を解明する研究を行った。 新たにERSと診断できた11例を対象に、次世代シークエンサーによるパネル解析を行い、1例においてKCND3新規変異(p.Gly306Ala)を同定した。培養細胞を用いた電気生理学的機能解析を行い、本変異が一過性外向きカリウム電流(Ito)の機能獲得型障害を呈することを明らかにした。また、薬物負荷実験によってIto阻害薬であるキニジンが濃度依存的にその障害を是正することも証明した。 次に、Ito阻害作用をもつベプリジルでも薬物負荷実験を行い、同様に濃度依存的に機能獲得型障害を是正することを確認した。しかし、本症例の臨床経過ではキニジンは致死性不整脈を抑制して著効を示したが、ベプリジルは不整脈が再発して効果不十分であった。これらの薬効の差を検討するには培養細胞による実験では困難であった。そこで、薬効を詳細に評価できる心筋細胞実験モデルの構築を試みた。健常人コントロールiPS細胞に対してCRISPER-Cas9システムによるゲノム編集を行い、本変異のヘテロ型ならびにホモ型の疾患モデルiPS細胞を樹立した。そして、iPS細胞を心筋細胞へ分化させて実験モデルを構築することに成功した。
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