研究課題
LDLコレステロールは心血管疾患発症の危険因子として確立しているが、LDLコレステロールに対する薬物治療を行っても心血管疾患発症リスクが残存する。これまでの研究で、中性脂肪は脂質異常症治療の次のターゲットとして注目されている。FMD-J研究に登録された4887例を対象に中性脂肪と血管内皮機能との関係を検討したところ、中性脂肪が血管内皮機能障害の独立した規定因子であること、中性脂肪が150 mg/dLよりも低い106 mg/dL 以上の群で、すでに血管内皮機能が障害されていた。次にFMD-J研究に登録された冠動脈疾患を有する症例652例を対象に中性脂肪とその予後との関係を検討したところ、中性脂肪が正常高値 (100-150 mg/dL) の群は中性脂肪100 mg/dL未満の群と比較し複合心血管死(心血管死、心筋梗塞、脳梗塞、狭心症)が有意に多く認められた。さらに、年齢、性別、Body mass index、収縮期血圧、LDLコレステロール、血糖値、喫煙状況で補正を行った結果、中性脂肪が正常高値の群は複合心血管死の独立した危険因子であることが明らかとなった。日本や外国における脂質異常症ガイドラインは、中性脂肪が150 mg/dL以下を正常と定義している。しかし、適切な中性脂肪治療の目標値について十分な根拠がなく、どこまで介入すればよいのか指針はない。本研究の成果により、中性脂肪が正常高値であるの100-150 mg/dLの群で、既に血管内皮機能が障害され、心血管疾患発症リスクが高いことが示された。中性脂肪100 mg/dL未満を目標に治療を行うことで心筋梗塞、脳梗塞などの血管合併症発症の抑制につながる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究により、中性脂肪が正常高値の群で血管内皮機能が障害され心血管疾患発症リスクが上昇することが示唆された。
これまでの研究で中性脂肪低下療法により心血管疾患発症抑制効果が得られなかったのは、イベント抑制のための目標値が定まっていないことが原因として考えられる。本研究により、中性脂肪が正常高値の群で動脈硬化が進んでいることが示唆されている。今後は、中性脂肪がさらに低い値で、どの段階で動脈硬化が進展しているのかを評価していく。また、中性脂肪のROCK活性への影響についても検討を行う。これらのデータをまとめ、中性脂肪の心血管疾患発症リスクが増大する閾値を明らかにする。
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