研究課題
<背景> 絶え間なく収縮弛緩を繰り返す心臓にとって、ミトコンドリアの品質管理は重要だ。mitophagyは主要な品質管理機構だが、心臓においては不明な点が多かった。培養細胞での過剰発現系やuncouplerを使用した研究から、Parkin-Pink1経路が分子機構として注目されたが、生体内においても重要であるか否かは見解が分かれており、心臓の病態生理下でmitophagyがどのような意義を持つか、どのように制御されているかは不明な点が多かった。<目的> autophagyやmitophagyは栄養飢餓で活性化し、細胞を保護する。心臓の急性期の虚血においてmitophagyが心筋保護に働くか否かを明らかにし、分子機構を解明する。<方法・結果> レポーターを使用して、遺伝子改変動物の虚血心筋においてmitophagyを定量し、主要な分子機構を同定した。安静時のmitophagyは通常のautophagyに制御されるが、虚血時のそれはUlk1依存性alternative autophagyに主に制御されることを解明した。培養心筋細胞において過剰発現やノックダウンを使用しながら、分子機構の詳細を明らかにした。Ulk1がalternative autophagyに重要なRab9をリン酸化し、ミトコンドリア分裂を誘導するタンパク複合体を形成し、ミトコンドリア断片化とmitophagyが連動することを報告した(J Clin Invest. 2019 Feb 1;129(2):802-819. doi: 10.1172/JCI122035.)。現在は虚血再灌流のmitophagyについて検討している。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子改変動物の虚血心筋においてmitophagyを定量し、主要な分子機構を同定した。培養心筋細胞において過剰発現やノックダウンを使用しながら、分子機構の詳細を明らかにできた。Ulk1によるRab9のリン酸化部位を同定し、リン酸化抵抗性Rab9を発現するノックインマウスを作成して野生型と比較した。ノックインマウスの心臓では虚血においてmitophagyが損なわれ、心筋梗塞が増大することを解明した。一方で通常のautophagyの活性は野生型と比較して不変だったことから、Ulk1によるRab9のリン酸化はmitophagyを特異的に誘導して心筋を保護する、重要な機構だと考えられた。
虚血のみならず再灌流においてmitophagyが増減するのか、それはどのような分子機構で制御されるのかを検討する。現時点では、autophagyやmitophagyが再灌流において心臓を保護するか障害するかは見解が様々である(再灌流時の過剰なautophagyは細胞死を誘導し、有害だと報告がある)。再灌流時に両者を刺激する薬物を投与して、心筋梗塞の増減を評価する。
新型コロナウィルスの影響で学会がキャンセルとなり、宿泊費・移動費を抑制することになった。また、予定していた海外からの動物購入・搬入を延期することにした。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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10.1093/ejcts/ezz122