本研究の目的は、「癌においてミクログリアを介した脳内炎症が心機能障害や摂食代謝障害を引き起こすか」を明らかにし、さらに、ミクログリアを介した「癌脳連関」の機序を明らかにすることである。 【癌カヘキシーの進行におけるミクログリアの寄与】ミクログリアの活性を低下させるために従来行われてきた、ミノサイクリンの脳室内慢性投与を行い、癌カヘキシーの進行におけるミクログリアの寄与を検証した。まず、癌カヘキシーモデルラットでは対照ラットと比較してミクログリアの活性が亢進していた。ミノサイクリンの脳室内慢性投与により、ミクログリアの活性化の抑制とともに、心筋萎縮ならびに心機能低下が抑制され、骨格筋や脂肪組織の萎縮も抑制された。また、ミノサイクリンにより食餌量の減少も抑制された。これらの結果から、癌カヘキシーの進行におけるミクログリアの寄与が示唆された。 【ミクログリアを介した「癌脳連関」の機序】癌カヘキシーモデルラットにおいて、脳内の炎症性サイトカインは増加していた。脳内炎症をつかさどるミクログリアの活性抑制により、脳内炎症性サイトカインの抑制を認めた。また、癌カヘキシーモデルにおいて、交感神経活動の調節を担う視床下部室傍核の神経興奮や、摂食抑制に働く視床下部弓状核の神経興奮を認め、ミクログリア活性低下によりこれらの神経興奮は抑制された。尿中ノルエピネフリン排泄量などの交感神経活動の指標も、ミノサイクリン投与により低下した。これらの結果より、癌の進行に伴ってミクログリアが活性化し脳内炎症を惹起することで、交感神経中枢・摂食中枢に影響し癌カヘキシーが進行することがすることが示唆された。 【まとめ】癌において、ミクログリアを介した脳内炎症が交感神経中枢・摂食中枢に影響し、心機能障害や摂食代謝障害を表現型とするカヘキシーの進行に寄与することが示された。
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