研究課題/領域番号 |
19K17606
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
田中 敦史 佐賀大学, 医学部, 特任准教授 (00594970)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脳卒中 / 地域医療 / 抗凝固薬 / 神経学的予後 |
研究実績の概要 |
今回我々は、研究課題に基づいて、佐賀県内の地域基幹病院における脳卒中発症患者の臨床的背景と神経学的予後に関する実態調査を実施した。2015年4月から2016年3月の間に、佐賀県西部に位置する伊万里有田共立病院に脳卒中のため入院した連続263症例(年齢75±13歳、男性/女性:145/118)について、後ろ向きに入院時の臨床的背景と退院時の神経学的重症度(modified Rankin Scale: mRS)を調査した。 対象症例の基礎疾患として、高血圧171例(65.0%)、糖尿病57例(21.7%)、脂質異常症70例(26.6%)が認められ、59例(22.4%)が脳卒中の既往を有していた。今回発症した脳卒中の病型は、くも膜下出血10例(3.8%)、一過性脳虚血性発作33例(12.5%)、脳梗塞161例(61.2%)、脳出血59例(22.4%)であり、各病型の平均年齢は、68±14歳、74±13歳、77±12歳、70±14歳と脳梗塞で最も高齢であった。 脳梗塞を発症した症例の中で、入院時に心房細動(発作性心房細動を除く)が認められたのは26例(16.1%)であった。そのうち抗凝固薬の投与を受けていたのが14例(53.8%)であり、ワーファリン投与例(10例)のうち、7例がPT-INRが治療域未満での発症であった。一方で、直接経口抗凝固薬投与(4例)のうち、個々の腎機能や体重の面から3例が推奨用量のunder-doseであった。 全症例における退院時のmRSは中央値3[IQR1, 4]であり、特に脳出血例では中央値4[IQR2, 5]と中等度以上の障害を残したまま退院していたことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに佐賀県内の地域基幹病院における脳卒中発症患者の臨床的背景と神経学的予後に関する実態調査について、2015年4月から2016年3月の間に、佐賀県西部に位置する伊万里有田共立病院に脳卒中のため入院した連続263症例(年齢75±13歳、男性/女性:145/118)についての、入院時の臨床的背景と退院時の神経学的重症度(modified Rankin Scale: mRS)の調査を完了した。 現在、引き続き2016年4月から2017年3月までの間に発症した脳卒中症例の登録は完了しているものの、前年度と同様の調査・データ解析を現在実施している段階であり、今後2年分のデータの統合を行い、それらのデータから同地域における脳卒中診療の実態解明と問題点の抽出を予定している。 その他に、関連学会への参加を通じて、脳卒中の基本的な危険因子である高血圧、糖尿病、脂質異常症などについて最新の臨床的・基礎的事項ならびに脳卒中の世界的な発症動向などについて情報収集し、本研究課題への応用についての検討を実施した。 なお、2020年5月に開催される第9回臨床高血圧フォーラムと2020年6月に開催される第56回日本循環器病予防学会学術集会と、2020年10月に開催予定であった第43回日本高血圧学会総会において、研究結果の一部を報告予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により開催が中止となり、データ収集や学外の研究協力者との議論のための施設訪問なども困難となったため、当初の研究・発表計画に大きな影響が及ぼされる懸念があり、先行きが不透明であることから、進捗がやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の研究結果は、当初予定していた観察期間のまだ半分程度のデータであり、今後は残りの観察期間におけるデータ収集・解析を行うと同時に、両観察期間におけるデータの比較・統合などを実施していきたいと考えている。 当該地域において、脳卒中の発症は高齢者における脳梗塞が大きな割合を占めていた。神経学的後遺障害の影響も含め、脳卒中は健康寿命の短縮に大きく影響することから、危険因子の管理と同時に、患者背景に応じた適切な薬剤使用が求められる。また、どのような因子が神経学重症度の悪化と関連しているかなど、より多角的な視点から評価を行い、地域における脳卒中診療の質向上に寄与できるように、引き続き研究を実施していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗がやや遅れた結果、現研究成果報告を目的とした学会参加費及び研究成果発表費を次年度に繰り越した。 引き続き次年度での研究成果報告に向け関連する学会等へ研究成果を登録しており、発表に係る経費に使用する予定である。
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