研究課題/領域番号 |
19K17607
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐藤 迪夫 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 特別研究員 (10833410)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心不全 / DNA損傷応答 / HMGB2 / 圧負荷誘導性心不全 / p53 |
研究実績の概要 |
申請者は、圧負荷誘導心不全モデルを用いた心不全病態形成初期におけるプロテオーム解析より、DNA修復に関与するhigh mobility group box protein 2(Hmgb2)遺伝子を同定した。また同モデルにおいてHmgb2欠損(Hmgb2 KO)マウスはwild-type(WT)に比べ心機能が低下し、DNA損傷応答:DNA Damage Response(DDR)の中心的分子の一つであるp53が増加することを確認している。令和元年度は、申請内容に即して下記の実験を行った。 ①Hmgb2 KO マウスを用いた心不全病態形成におけるHMGB2の分子機構の解明:本申請までに、申請者はマウス圧負荷誘導心不全モデルにおける心組織中のHMGB2の上昇を確認している。本年度は、HMGB2に制御される遺伝子について網羅的探索のために、WTおよびHmgb2 KO マウスに対してTACモデルを作製し、マイクロアレイを施行した。その結果、Hmgb2 KOマウスにおいて、炎症を抑制するIκBαの有意な減少およびOpn, Loxなどの炎症を惹起する遺伝子の発現増加が確認された。これらの結果は炎症の増悪に寄与するものであり、Hmgb2 KOマウスにおけるDDRの亢進を裏付ける結果と考えられた。 ②心不全におけるDDRに対するHMGB2の機能および、その制御機構の解明:DDRにおける中心的な分子の一つであるp53を制御することが報告されているATM/ATRやCHK1/CHK2について、Western blotにより評価した。しかし、これらタンパクレベルに有意差を認めなかった。 以上より、Hmgb2はDDRの起点となるATM/ATRやCHK1/CHK2の制御には関与しておらず、その下流のp53を制御することにより心不全病態形成に影響を与えていることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Hmgb2 KOとWTマウスを用いたマイクロアレイでIκBαやOpn, Lox, Aqp1、Fkbp10、Ramp1、Myl7などの有意な減少が確認されたものの、p53の発現には有意差を認めなかった。HMGB2はDNA binding domain を2つ有し、真核生物に遍く存在する核タンパク質である。その作用として、核内でヌクレオソーム構造を変化させることによる転写制御・クロマチン構造の維持・DNA修復が報告されている。そのため、Hmgb2 KOマウスではp53の転写が亢進していると予測をしていたが、マイクロアレイおよび個別サンプルを用いたRT-PCRでは、予想に反してp53の遺伝子発現に有意差を認めなかった。一方で、TACモデルにおいてはHmgb2 KOマウスではp53タンパクが増加していることを既に確認している。これらの結果と、これまでにHNGB2が標的遺伝子の翻訳を直接制御することは報告されていないことも踏まえ、HMGB2がp53の発現を制御する転写因子などを制御してする可能性が示唆された。そのため、申請時に提示した仮説を修正することとなったが、実験結果を踏まえた計画修正を行い、新たな仮説の基に研究を遂行できており、「おおむね順調に進展している」と考えている。ただし、当施設における新規マウスの作製に遅滞が生じており、本申請研究で作製を予定しているTET-OFFシステムを用いた薬剤誘導性心筋特異的Hmgb2 Tgマウスの作製が当初の予定よりも遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、今年度施行した実験の結果、DDRにおけるHMGB2の機能および、その制御機構は当初想定した仮説と異なる可能性が示唆された。また、予定していたTET-OFFシステムを用いたHmgb2 Tgマウスの作製・検証が遅れることも考慮して、以下のように次年度の研究方策を修正する。 ①ラット心筋株化細胞であるH9c2細胞を用いて、HMGB2過剰発現またはKDし、HMGB2の心臓保護作用を検証する。具体的には、HMGB2過剰発現あるいはKDした細胞に、DDRを強く誘発することが報告されているドキソルビシンやH2O2を添加して、ANP、BNPおよびMyh7などの心不全マーカーを評価する。さらに、p53やNfKβやIkβ、DDRの指標となるγH2Xなどのマーカーを評価して、HMGB2とDDRの関連を確認する。さらにHMGB2をbaitにしたRIPを行い、負荷時におけるHMGB2のターゲットを同定する。 ②Hmgb2 KOマウスとWTにドキソルビシン投与モデルを作製して、心機能を評価する。最近、ドキソルビシン投与モデルによりHMGB1 Tgマウスを用いたDDRの軽減が報告されている(JACC Basic Trans Science. 2019)。Hmgb2とHmgb1の構造の相同性は80%程度であり、同モデルにおいて、DDRにおけるHMGB2の作用を生体で検証する。 ③申請時に予定していた通り、ヒト心不全および非心不全組織サンプルを用いたHMGB2の発現解析を行う。当大学細胞病理学分野に保存してあるヒト剖検症例の心臓組織サンプルを用いてHMGB2発現評価を行う。具体的には慢性心不全および非慢性心不全が死因のサンプルをそれぞれ10-15 症例準備し、心不全とHMGB2の相関を評価する。
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