研究実績の概要 |
2021年度の研究課題として、慢性腎臓病、特に透析症例に対する左心耳切除の心房細動に与える影響を検証した。 日本における慢性腎臓病患者数は増加し、透析患者は34万人に達した。透析患者では心房細動の発症率が高いことは報告されているが、出血リスクの懸念から抗凝固薬の開始・継続が困難であることが少なくない。透析症例の関心術においては、左心耳マネジメントの意義は高い。しかし、左心耳切除の有害事象として心房細動が増加する報告がある。今回、透析症例に対して左心耳切除が術後の心房細動に及ぼす影響に関して調べた。 2002年から2020年の間に当院で手術を実施した初回冠動脈バイパス術で、術前洞調律である2691例を対象にした。平均追跡期間は7.3年。CKDステージに分類すると、G1: 353例 (13.1%)、G2: 1257例 (46.3%)、G3: 732例 (27.2%)、G4: 98例 (3.6%)、G5: 261例 (261%)である。術後15年の心房細動回避率はそれぞれ86.9%, 86.9%, 82.6%, 86.8%, 68.5%とG5グループで低い。非左心耳切除群においてはG1-4グループに対してG5グループの心房細動発症率は有意に高いが(術後10年心房細動回避率:93.1% vs. 79.6%, p=0.01)、左心耳切除群においてはG1-4とG5グループの心房細動発症率は差がない(術後8年心房細動回避率:93.8% vs. 97.3%, p=0.91)。したがって冠動脈バイパス術における同時左心耳切除術は透析症例に対する心房細動抑制効果を有することが示唆された。 左心耳切除による左房容量の減少や内分泌機能の変化などが透析患者に対してどのように作用して術後心房細動を抑制したのかを今後検証する必要がある。
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