気管支喘息の発症の危険因子には遺伝的素因と環境因子の両者が存在する。後天的な要因が個体へ影響を及ぼすメカニズムにはエピジェネティクス(DNAの塩基配列変化を伴わない遺伝子発現の多様性)の関与が指摘されている。繰り返す炎症によって形成される気道リモデリングは、非可逆的な気道狭窄を生じ、気道過敏性が亢進する治療抵抗性の病態である。エピジェネティクスの研究は、疾患のステロイド抵抗性を克服し、リモデリングを制御しうる手段としても期待がもたれている。 ダニによるマウスモデルにおいては、HDAC阻害剤の先行投与群において好中球性気道炎症の軽減が認められた。また、ヒト気道上皮細胞をダニ抗原で刺激した実験系では、HDAC阻害剤がIL-6等、炎症性サイトカインを濃度依存性に抑制する結果が得られた。一方で、HDAC阻害剤投与群では、同時にMonocyte chemotactic protein-1-induced protein-1(MCPIP1)の発現が減少していた。 上記の結果から、HDAC阻害剤によって好中球性気道炎症を抑制する効果が認められた。過去の文献からは、MCPIP1がヒストンのアセチル化のため発現が増加することによる抗炎症機序を候補に想定していたが、本実験からは逆の結果が得られた。 エピジェネティックな機序により、気管支喘息をはじめとする気道炎症性疾患が改善しうる機序を解明するため、RNA sequenceにより原因となる遺伝子を同定していく予定である。
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