研究課題
本研究は、慢性肺疾患の病態への肺上皮幹細胞におけるシグナル経路Hippo pathwayの関与を明らかとすることを目標として開始した。本年度は、肺上皮幹細胞特異的にTAZ/YAPを欠失するマウス系統を作出するため、タモキシフェン(TMX)誘導型Creリコンビナーゼ(II型肺上皮細胞特異的; SFTPC-Cre/ERT, クララ細胞特異的; CCSP-Cre/ERT)発現マウスとTaz floxedマウス・Yap floxedマウスをそれぞれ交配し、系統を得た。またこれらのマウスにTMXを投与してTAZ/YAPを欠失させるため、TMXの投与法・投与量について検討した。TMXの毒性を回避できる投与量を検討し、SFTPC-Cre/ERT系統においては2 mg/日連日、CCSP-Cre/ERT系統においては5 mg/日隔日の投与量を定め、現在TAZ/YAPのknockout効率を定量的に検討中である。また野生型マウスを用いて、bleomycin投与による肺線維症疾患モデル、LPS投与による肺炎症モデル、豚膵エラスターゼ投与による肺気腫モデルの作出をそれぞれ行い、投与量等を検討し、確立した。現在遺伝子改変マウスの一部を、まずbleomycin投与による肺線維症疾患モデルに供し実験を行っている。その結果は随時解析中であるが、一部の系統でマウス死亡率の顕著な上昇を確認しており、その原因を解析中である。細胞実験においては、Hippo pathwayのエフェクターであるTAZ、YAPについて、気道上皮および肺上皮の培養細胞株にsiRNAによるknock down実験、plasmidによるknock in実験を行い、その基礎的な動態について解析した。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子改変マウス系統の確立は概ね予定通りに進捗しており、また野生型マウスを用いた肺疾患モデル実験系の確立も予定通りに完了している。マウス繁殖のトラブルのため、レポーターマウスを用いた、タモキシフェン投与による上皮幹細胞からのTAZ及びYAPのノックアウト効率の定量が遅れているが、既報と毒性の評価からタモキシフェンの基本的な投与量については確立しており、研究計画に大きな影響はないと思われる。これらの結果から、本年度の進捗状況はおおむね順調であると評価することができる。
次年度は確立したマウス系統を逐次各種疾患モデルに供し、TAZ/YAPのノックアウトの疾患モデルへの影響について定量的に評価することを目標に実験を行う。まずは死亡率の系統による差異がみられたブレオマイシン投与肺線維症疾患モデルを優先的に行い、その後LPS投与モデル、エラスターゼ投与モデルについても評価していく予定である。またこれらの分子生物学的機序を考察するため、in vitroにおいても引き続き実験を行っていく。
今年度の実験については、当研究室であらかじめ行われていた実験を裏付けするものであったことや、動物実験及びin vitro実験に必要な器具・試薬にある程度のストックがあったため、購入費用が少なくて済んだ。次年度は肺疾患モデルの解析が本格的に開始され、より多くのマウスの維持費用及び得られた肺サンプルの組織学的解析、生化学的解析等に今年度よりも多くの試薬・コストが必要とされる見込みであり、それらに必要な購入に使用する。
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American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology
巻: 62 ページ: 256~266
10.1165/rcmb.2019-0218OC