研究課題/領域番号 |
19K17638
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
佐藤 正大 徳島大学, 病院, 講師 (80530899)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Fibrocyte / microRNA / miR-21 |
研究実績の概要 |
特発性肺線維症 (IPF) は肺機能の進行性低下を特徴とする難治性疾患である。FibrocyteはIPFの新たな治療標的候補として注目されているが、その線維化促進作用には未だ不明な点が多い。近年、様々なマイクロRNA (miRNA) が組織の線維化に関わる可能性が報告されているが、fibrocyte由来のmiRNAについては未だ報告がない。我々は予備実験の結果、線維化組織における異常な細胞外基質(ECM)の構築が、fibrocyteのmiRNA発現を変化させる可能性を見出した。よって本研究では線維化肺組織に含まれる特定のECM成分がfibrocyteのmiRNA発現調節を介して肺の線維化促進に働いていることを証明し、これに基づく新たな治療標的候補の発見を目的としている。 令和元年度の目的として、一つ目に「線維化肺組織のECMがfibrocyteのmiRNA発現に与える影響の検討」を掲げた。ラット正常肺組織から単離されるfibrocyteで、ラット正常肺または線維化肺から作成された脱細胞肺組織を再細胞化し、培養したところ、線維化肺由来の脱細胞化肺組織中での培養はfibrocyteの線維化促進性miRNAであるmiR-21発現を上昇させた。二つ目に「Fibrocyteの発現するエクソソームが線維芽細胞に与える影響の検討」を掲げた。Fibrocyteの培養上清からエクソソームのみを抽出し、線維芽細胞に濃縮投与して、分化マーカーや細胞外基質の発現量に与える影響を検討したところ、線維芽細胞の分化マーカーであるActa2や、ECMの1つであるCol1a1の発現が著しく増加した。本研究により、fibrocyteは線維化肺組織内で構築された異常なECMの影響を受けて、エクソソームに内包された線維化促進性miRNA量を変化させ、周囲の線維芽細胞に線維化促進効果を与えている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の目標として掲げた上記2計画に関しては、検討が進んでおり、おおむね順調に経過していると考えられる。令和元年度の目標として掲げた他の2計画である、①FibrocyteのmiR-21発現に影響を与える線維化肺組織中ECM成分の同定や、②Fibrocyte由来エクソソームの線維芽細胞内への取り込みやすさの検討、についても既に一定の成果が得られており、今後の再実験により同傾向の結果が認められれば最終評価に至る段階にある。 令和2年度以降の目標としては、以下の3計画を掲げている。③線維化肺組織の弾性がfibrocyteのmiRNA発現に与える影響の検討、④臨床検体を用いた治療標的候補ECM成分の疾患毎差異の検討、⑤ラット肺線維症モデルを用いた治療標的候補ECM成分阻害効果の検討、の3つである。③についてはハイドロゲルを用いたin vitro実験に既に着手している。④については検体の集積を試みているが、症例の十分な集積が困難な可能性もあり、今後条件の検討が必要である。⑤については上記検討、特に①の検討終了後に再計画する方針である。よって現時点での総合評価として、概ね進捗は順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の研究目標の一つである「FibrocyteのmiR-21発現に影響を与える線維化肺組織中ECM成分の同定」については、ヒト肺線維化組織中のプロテオーム解析を行った既報告の結果を参照にしつつ実験計画を再検討している。具体的には、正常肺組織と比較して線維化肺組織で成分量が増加したECM成分のうち、組織線維化に関わる可能性が報告されているものの組み替え体タンパク質をfibrocyteに投与することで、miR-21発現に与える影響を今後検討予定である。同年度のもう一つの研究目標である「Fibrocyte由来エクソソームの線維芽細胞内への取り込みやすさの検討」については、予備的実験で既にfibrocyte由来エクソソームのほうが、線維芽細胞自身に由来するエクソソームよりも線維芽細胞に取り込まれやすいとした結果を得ている。 令和2年度以降の研究目標である「線維化肺組織の弾性がfibrocyteのmiRNA発現に与える影響の検討」についてはハイドロゲルを用いたin vitro実験に既に着手しており、今後も継続の方針である。「臨床検体を用いた治療標的候補ECM成分の疾患毎差異の検討」については症例の集積に努めているが、症例の十分な集積が困難な可能性もあり、上記のように他施設からなされた既報告を参考にしつつ他計画を遂行中である。当施設でも一定数の検体が得られれば速やかに網羅的プロテオーム解析を企図する方針である。「ラット肺線維症モデルを用いた治療標的候補ECM成分阻害効果の検討」については、標的候補が絞られ次第、計画する予定であるが、そのECM成分そのものを標的とするか、あるいはECM成分が刺激する細胞表面の受容体等を標的とするか、を今後検討する必要があると考えている。
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