研究の目的は、抗癌剤、特に上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)を用いた際に日本人に高率に発症する重症の薬剤性間質性肺炎のリスクとなる遺伝因子を同定することである。これまでの研究でEGFR-TKIによる間質性肺炎および特発性肺線維症(IPF)急性増悪を発症した複数の患者において,当初はMUC4遺伝子のexon2に認めた多型(3塩基の挿入)がEGFR-TKIによる薬剤性間質性肺炎の原因遺伝子変異と考えたが、研究を進めるとこの3塩基挿入の変異は疾患関連塩基配列ではない可能性が高くなった。このため疾患群と健常群のMUC4のexon2の全配列を決定する作業を行った。そのうえで、症例群とコントロール群でのケースコントロールスタディを行った。症例群10名、コントロール群88名でアレル型を、およびexon2の塩基配列を症例群9名、コントロール86名で決定した。全ての症例でcos5アレル型が検出されたが、このアレル型はコントロール群でも検出頻度が高く、cos5アレル型の肺障害発症における有意な関連を示すことはできなかった。 cos5アレル内の単塩基変異、挿入変異、欠失変異も検索したが、肺障害発症と有意な関連を示すものは認められなかった。ただし、この結果はcos5アレルが肺障害発症との関連を否定する結果ではないと考える。特に浸透率が低い場合には、cos5アレル、またはMUC4が原因であったとしても、有意な関連を証明するためにはさらに多くの症例集積が必要と考えられた。
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