本研究は、肺の機能維持に必要不可欠な肺の感覚器NEBを構成する肺NE細胞(NE細胞) に着目し、発生期においてどのような制御メカニズムがNEB形成に寄与するのかを明らかにすることを目的としている。ヒトの肺と構成している細胞種や構造が酷似しており、各発生ステージによる肺組織像がおおよそ判明しているマウス胎児肺を用いて、解析を進めている。 昨年度までに、硬さ勾配をもつゲル基質の開発を行い、NE細胞がやわらかい基質から硬い基質側へと遊走するDurotaxisという性質を示すことを明らかにした。さらに、E14.5マウス胎児肺および E18.5マウス胎児肺から得られた肺上皮細胞のシングルセルデータの解析を進め、NE細胞が遊走時に特異的に発現している遺伝子を複数見出した。そこから、各遺伝子のノックアウトマウス(KOマウス)の作製へと研究を進めた。 二年目となる令和2年度は、昨年度から引き続きKOマウスの作製からスタート予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大による対応のため、作製途中であったKOマウスの多くを処分しなければならない状況となり、結果として実験を何か月も止めることとなった。しかし、共同研究先から目的遺伝子と類似機能を持つことが報告されている関連遺伝子のKOマウスのサンプルを供与いただき、表現型の解析を進めることができた。この結果、関連遺伝子のNEB形成への寄与は少ないとの結果を得られた。合わせて、AFMを用いた解析を行い、発生期の気管支において管エリアと分岐エリアで基底膜部分の弾性力に差があることが示唆されるデータが得られた。 今後は、KOマウスの表現型解析と、KOマウスから分取したNE細胞がDurotaxisを失うのかどうかを解析し、これまで得られてきた解析結果と合わせて論文にまとめる予定である。
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