多彩な病態を呈する呼吸器疾患の分類は、主に病理・生理学的知見をもとに行われてきた。一方で、近年の幹細胞生物学の進歩により、肺においても組織幹細胞が疾患の病態形成などに大きな役割を持つことが分かってきた。特に肺胞幹細胞であるⅡ型肺胞上皮細胞の機能異常は、肺癌、肺気腫、肺線維症などの呼吸器領域において致死性の高い疾患との関連性が、動物モデルにおいて指摘されている。しかし、初代細胞の単離や培養維持の難しさから、実際のヒト疾患における肺胞幹細胞の動態は未知の部分が多かった。 本研究では、肺癌,肺気腫、肺線維症などの疾患横断的な患者臨床検体の解析と、ヒト iPS 細胞由来肺胞幹細胞モデルから得られた知見を融合することで、これら病態を「肺胞幹細胞機能異常」関連マーカーを用いた新たな分類軸で層別化すること目指している。特に肺癌等の難治性呼吸器疾患と幹細胞機能異常を軸とした疾患再評価を進めるにあたって、同一組織内に存在する腫瘍内あるいは正常部位との不均一性および構成細胞の周囲組織との連関などが、特定の幹細胞あるいは分化マーカーに着目した解析を進めるうえで極めて重要であり、これを実現するためのツールとして有力なのが空間オミックス解析であると考えた。本年度は、従来行ってきた免染での評価に加えて、肺癌等の組織切片を用いた、空間トランスクリプトーム解析を施行するだけでなく、組織から単離した肺癌細胞と線維芽細胞などとの共培養下に、三次元オルガノイドを形成することで実際の腫瘍を模倣した組織を再構成することが出来るようになった。また、このオルガノイドを空間オミクス解析することで、腫瘍だけでなく周囲ニッチとの連関を探索することが可能になった。これらの新たな技術・知見は、今後特に幹細胞周囲ニッチに着目した新規創薬ターゲット同定や薬剤探索につながる可能性がある。
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