本研究では重症度が顕著に改善した肺高血圧症(PH)の血漿サンプルを用いて、炎症に深く関与する高ヒスチジン糖タンパク質(HRG)と終末糖化産物受容体の可溶型分子種(sRAGE)の量的変動について検討を行った. 岡山医療センター循環器内科で本研究に同意頂いたPH症例486名のうち、これまでのスクリーニングにより平均肺動脈圧(mPAP)が初診時に40mmHg以上の重症例で治療後に25mmHg未満と顕著に改善した症例で、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)33症例、特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)7症例、遺伝性肺動脈性肺高血圧症(HPAH)4症例について、健常者33例を対照として治療前後の血漿中のHRGとsRAGEをELISA法により測定した. HRGは、健常者で年齢と有意に相関したため、健常者との比較では傾向スコアマッチング法で年齢を調整した解析を行った.その結果、治療前PH症例は健常者に対して有意な低値を示し、治療後は健常者と同じレベルまで有意に上昇した.各病型ではCTEPH症例はPH症例全体と同じ解析結果であったが、I/HPAH症例では治療前は健常者より有意に低値を示したものの、それ以外の解析では有意な変化は認められなかった.一方、sRAGEは健常者に対し治療前で有意に高値を示し、治療後は健常者と同じレベルまで有意に低下した.各病型では CTEPH症例はPH症例全体と同じ解析結果となったが、I/HPAH症例ではいずれの解析でも有意な変化は認められなかった. 本研究により、mPAPによる重症度の高いPH症例は健常者に対しHRGは低値を示しsRAGEは高値を示すこと、さらに顕著なmPAPの改善により両因子とも健常者と同じレベルになることが明らかとなった.しかし、病型によって各因子の動態は異なる事から、重症度以外の要因についても今後さらに検討していく必要がある.
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