研究課題/領域番号 |
19K17690
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 崇 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 特別研究員 (20823561)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 気管支喘息 |
研究実績の概要 |
気管支喘息は気道を中心とした慢性アレルギー疾患の一つである。気管支喘息の発症には遺伝的要因、環境要因双方の影響が考えられているが、現在の所詳細なメカニズムは明らかでない。また、近年気管支喘息を含むアレルギー疾患と腸内環境との関連についてはいくつか報告があるものの、その制御機構は不明である。我々はヒト横断研究を用いた先行研究により、5歳時での喘息発症群では喘息非発症群に比べ、1才時糞便中Staphylococcus属のOTU countが有意に上昇していることを見出した(未発表データ)。各種臓器におけるStaphylococcus属の定着がアレルギー疾患の発症に寄与している報告が数多くあり、本結果は腸内Staphylococcus属が気管支喘息の発症に寄与している可能性を示唆している。そこで本研究の初年度には1:HDM(House Dust Mite,チリダニ)誘発性喘息モデルマウスにおける腸内Staphylococcus属の経時的、網羅的解析および2:腸内Staphylococcus属におけるHDM誘発性喘息モデルマウスへの影響の検討を行った。その結果、HDM誘発性喘息モデルマウスにおいてStaphylococcus属のOTU countが上昇していること。2:Staphylococcus属定着マウスではコントロールマウスに比べ、HDM誘発性喘息モデルマウスにおいて肺、気管支肺胞洗浄液中への好酸球とリンパ球の浸潤が有意に上昇していた。3:Staphylococcus属定着マウスではコントロールマウスに比べ、所属リンパ節CD4陽性T細胞のTh2サイトカイン産生が上昇していることが明らかとなった。これらの結果から腸内Staphylococcus属が気管支喘息の発症に寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SPFマウスにHDMを経気道投与し、アレルギー性気道炎症の惹起を行う。HDMに対するアレルゲンの陰性対照としては牛血清アルブミンの投与を行う。アレルギー性気道炎症を惹起するプロトコールの中で経時的に糞便を回収し、回収した糞便をメタノール処理、DNA抽出を行った後、細菌叢塑性解析(16Sアンプリコン解析)を行った。行った解析dataの中でアレルギー性気道炎症を起こしたマウスと陰性コントロールマウスにおける腸内多様性の評価(α多様性、β多様性)および腸内Staphylococcus属の経時的・網羅的解析を行った。その結果、HDM誘発性喘息モデルマウスおよび陰性対照マウスでは糞便のα多様性、β多様性に大きな変化は見られなかった。一方HDM誘発性喘息モデルマウスにおいてStaphylococcus属のOTU countが上昇していることが明らかとなった。
Staphylococcus属を経口投与し、作成したStaphylococcus属定着マウスHDM誘導性アレルギー性気道炎症モデルマウスを作成する。その後、肺や縦隔リンパ節、気管支肺胞洗浄液に存在する免疫細胞の性質及び機能変化を遺伝子、細胞及び組織レベルで解析し、各マウスにおけるアレルギー性気道炎症、サイトカイン産生を比較した。その結果Staphylococcus属定着マウスではコントロールマウスに比べ、HDM誘発性喘息モデルマウスにおいて、肺および気管支肺胞洗浄液中への好酸球とリンパ球の浸潤が有意に上昇しており、また所属リンパ節CD4陽性T細胞のTh2サイトカイン産生が上昇していることが明らかとなった。
以上より当初予定していた研究計画1、研究計画2が遂行できており概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は研究計画3に記載したStaphylococcus属定着マウスがHDM誘導性アレルギー性気道炎症に寄与するメカニズムの解析を行う。 実験計画1:Staphylococcus属定着マウスにおける糞便上清中水溶性代謝物、短鎖脂肪酸、脂溶性代謝物の経時的、網羅的解析。Staphylococcus属を定着させたマウスにHDMを経気道投与しアレルギー性気道炎症の惹起を行い、アレルギー性気道炎症を惹起するプロトコールの中で経時的に糞便および小腸内容物、大腸内容物を回収する。採取された糞便はメタノール処理を行い、上清を誘導体化処理後に質量分析計を用いたガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)による水溶性代謝物、短鎖脂肪酸、ならびに脂溶性代謝物の経時的・網羅的解析を行うことにより、腸内Staphylococcus属と相関のある腸内代謝物を同定する。 実験計画2: Staphylococcus属関連腸内代謝物におけるHDM誘発性喘息モデルマウスへの影響の検討:上記で同定した腸内Staphylococcus属に関連する腸内代謝物を経口投与したマウス及びおよび陰性コントロールマウスを用いて、HDM誘導性アレルギー性気道炎症モデルマウスを作成する。その後、肺や縦隔リンパ節、気管支肺胞洗浄液に存在する免疫細胞の性質及び機能変化を遺伝子、細胞及び組織レベルで解析する。また、同定した腸内代謝物もしくは前駆物質を遺伝子的に欠損させたマウスと野生型マウスにおける喘息モデルマウスを作成し、各マウスにおけるアレルギー性気道炎症、粘液産生増多、気道過敏性、サイトカイン産生を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の達成にはマウスの購入・飼育費用、上皮系培養細胞の購入費用、各種抗体、阻害剤、サイトカイン、培養液、牛血清、RNAsequence関連試薬、合成DNA、合成RNA等の消耗品を要する。酵素、サイトカイン、阻害剤に10万円、実験動物関連費用に10万円、各種抗体に10万円、牛血清に20万円、ELISAキットに60万円、RNAシークエンス関連試薬に50万円、合成DNA/RNAに30万円を要する見込みである。次年度の使用計画として酵素、サイトカイン、阻害剤に100万円、各種抗体に100万円、合成DNA/RNAに100万円,メタボローム関連費用として100万円、旅費として10万円にを使用する予定である。本助成金を人件費、大型機器の購入にあてる予定はない。
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