研究課題/領域番号 |
19K17694
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
國政 啓 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 呼吸器内科 医長 (30838892)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腫瘍内不均一性 / ドライバー変異 / PD-L1 / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
研究計画書の計画通り、2019年6月~11月に山梨県立中央病院ゲノム解析センターに国内留学し、次世代シーケンサー(NGS)の検体準備、解析方法について研修を行った。同センター、大阪国際がんセンター内のEGFR遺伝子変異を有する肺癌でマイクロダイセクション可能なPD-L1発現に不均一性を有する検体を10症例集積した。EGFR遺伝子変異の有無についてはPNA-LNA PCR clamp法にて検索を行った。PD-L1高発現部位と低発現部位について、Applied Biosystems ArcturusXT LCMシステムを用いてレーザーマイクロダイセクションを行い、肺癌関連53遺伝子について全エクソンシーケンスを行った。PD-L1高発現と低発現部位ではEGFR遺伝子変異を含む肺癌の発生にかかわるドライバ―変異に差はなく、PD-L1発現の差は腫瘍組織内に浸潤するリンパ球の数の違いにより生じている可能性が示唆された。またこれらの研究過程で、ドライバー変異のクローナリティーを解析する目的とNGS解析について習熟する目的で以下の研究を行った。肺癌進行の後に病理解剖した2症例の肺原発巣と各転移巣のゲノム解析を行い、各転移巣とドライバー変異の違いを検討した(Cancer Geneticsにaccept)。EGFR遺伝子変異を有する肺癌症例においてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が腫瘍内クローンにどのような影響を与えるかについて、治療前の原発巣の外科切除標本と耐性獲得後の卵巣転移切除標本をそれぞれ用いて、multiregional sequence(本研究計画書に記載した解析方法)により腫瘍内の多領域においてドライバー変異に違いがあるか、またEGFRチロシンキナーゼ阻害剤により、その違いにどのような影響が生じるかを解析した(Lung Cancer, under revision)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗は、研究計画書の予定とおり進んでいるものと考える。計画書の通り、山梨県立中央病院ゲノム解析センターでの研修を修了することができ、計画していたEGFR遺伝子変異を有する肺癌の外科切除検体を用いたPD-L1の発現の違いに基づくゲノム解析を行うことができた。10例の解析からは当初検討していたPD-L1の発現の違いと肺癌ドライバー変異との違いに相関は認められない可能性が高く、本研究課題のドライバー変異を有する肺癌の腫瘍内不均一性と免疫療法を含む抗癌剤治療の反応との関連については新たな方針を検討している(『今後の研究の推進方策』に記載)。また10例までの解析結果についてはこれまでの結果をふまえて、学会報告、論文報告にて発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
PD-L1発現の違いによるマイクロダイセクション法でドライバー変異の違いをみつけることは難しい可能性がある。その理由はPD-L1発現が腫瘍局所のリンパ球浸潤の違いによる生じている可能性が出てきたからである。しかし、計画書にて提示したEGFR遺伝子変異クローンの腫瘍内不均一性によりEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と抗PD-1抗体薬の反応性の違いが生じていた例(Kunimasa, et al. Ann Oncology.2018)と同じような別の症例を今年度経験した。これらの症例ではPCR clamp法でEGFR変異の存在が検出されるものの、次世代シーケンサー(NGS)の解析では同じ変異が検出されず、高いPD-L1発現(2症例ともPD-L1 100%)を認めた。これまで肺癌にて最も頻度の高いドライバー変異であるEGFR遺伝子変異がサブクローナル変異でありえる可能性を示している。全日本ベースの肺癌ゲノムスクリーニングプロジェクトであるLC-SCRUM Japanプロジェクトのデータベースを用いて、EGFR遺伝子変異がPCR法では検出されるが、NGS法では検出されなかった症例をスクリーニングし、それらのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、PD-1抗体薬の効果、免疫染色を用いた腫瘍内不均一性の解析を行い、EGFR遺伝子変異を有する肺癌症例における腫瘍内不均一性と治療効果の解析を行うことを計画している。また、申請者の所属する大阪国際がんセンター内でNGS解析の体制作りを進めており、2020年5月にNextSeq 550 (Illumina)を用いたNGS解析が可能になる予定である。NGS解析により、抗PD-1抗体の治療効果予測バイオマーカー検索も進めていく予定である。これらの課題を通じて、ドライバー変異を有する肺癌の腫瘍内不均一性とその免疫療法の可能性について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の残額については736円であり、ほぼ計画通りに使用した。今年度については計画とおり、引き続き次世代シーケンサーの解析のための遺伝子パネル購入などのために使用を計画している。
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