研究課題
糖新生は肝臓が中心的な役割を果たしているが、腎近位尿細管でも糖新生が行われている。全身の糖代謝異常に寄与する可能性をもつ腎糖新生であるが、その調節機構は明らかではない。副甲状腺ホルモン(PTH)は近位尿細管において糖新生亢進作用を起こすという報告はあるが、その制御機構や生理学的意義は不明であり、今回、PTHによる近位尿細管糖新生亢進作用に着目し、ラットおよびヒトより採取した単離近位尿細管を使用して、その詳細な制御機構を解析した。単離したラット近位尿細管とヒト近位尿細管(患者同意を得たがん手術検体の正常部分)において、db-cAMPの添加は糖新生酵素であるPEPCKとG6Paseの発現とグルコース産生能を有意に上昇させ、この作用は生理的濃度のインスリンで有意に抑制された。この系を用いてラット近位尿細管とヒト近位尿細管にPTHを作用させたところ、①糖新生酵素の発現とグルコース産生能は有意に亢進したが、②この作用はインスリンによる抑制を認めなかった。①に関して、PTHによる近位尿細管糖新生亢進作用のシグナル伝達経路を検討するため、PTH受容体の下流シグナルであるPKAとPKCの阻害薬(H89、Go 6983)をそれぞれ添加した状態でPTHの作用を確認したところ、後者において糖新生発現亢進作用の抑制を認めた。②に関して、PTHを作用させたラット近位尿細管では糖新生酵素の調節因子であるFoxo1の発現が有意に亢進しており、si-RNA anti-Foxo1による特異的遺伝子発現抑制によりPTHによる糖新生亢進作用は有意に抑制された。以上から、PTHによる近位尿細管糖新生亢進作用のシグナル伝達経路にはをPKCとFoxo1が関与していることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
単離近位尿細管を用いた検討については、ここまでの成果を日本腎臓学会学術集会2019「副甲状腺ホルモンはPKC/FOXO1を介して近位尿細管糖新生を亢進させる」、国際学会ASN(American Society of Nephrology) Kideney week 2019において「Parathyroid hormone enhances gluconeogenesis via PKC/FoxO1 pathway in proximal tubules」として発信している。また、近位尿細管糖新生とインスリン作用については、「Insulin promotes sodium transport but suppresses gluconeogenesis via distinct cellular pathways in human and rat renal proximal tubules.」Kidney Int. 2020 Feb;97(2):316-326として発信している。また、インスリン以降に予定している初代培養肝細胞での測定系も既に確立させており、以上を踏まえ、進捗状況はおおむね順調に進展していると考える。
今後は、インスリンシグナル伝達のメディエーターであるAktやリン酸化Akt、FoxO1蛋白の定量実験を行い、PTHが腎皮質のインスリンシグナルに与える影響を蛋白レベルで解析を行う。また、糖新生の首座である肝(細胞)におけるPTHの作用について、初代培養肝細胞を用いて解析を行う。
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Kidney International
巻: 97 ページ: 316~326
10.1016/j.kint.2019.08.021