腎臓は、血液をろ過して老廃物を排泄することで水・電解質・酸塩基平衡を調節する体液恒常性維持に不可欠な臓器であるとともに、糖新生を介して全身の代謝恒常性を維持する臓器でもある。そして、肝臓につぐ糖産生臓器である腎臓の糖新生は、乳酸とグルタミンを主たる非糖質性基質として腎近位尿細管(PT)において行われる。 PTで行われる糖新生の全身の糖産生への寄与は10%程度と推定されているが、糖尿病患者で肝糖新生を上回るPT糖新生の亢進が見られるなど、実際には全身の糖代謝異常に強く影響している可能性がある。しかしながら、肝糖新生と比較してPT糖新生の特異性については不明な点が多く、例えばその調節機構において副甲状腺ホルモン(PTH)にはPT糖新生亢進作用があり、副甲状腺機能亢進症には耐糖能異常が合併しやすいことが知られ、副甲状腺摘出後に血糖の改善が見られた症例が報告される。 今回、PTHによる近位尿細管糖新生亢進作用に着目し、ラットおよびヒトより採取した単離近位尿細管を使用して、その詳細な制御機構を解析した。その結果、PTHはPKC(プロテインキナーゼC)を介して近位尿細管の糖新生を亢進させることを明らかにした。さらに、PTHはインスリン/Akt/FoxO1経路を直接的に阻害することで、近位尿細管におけるインスリン抵抗性を惹起することを見出した。本研究の結果は、原発性副甲状腺機能亢進症、偽性副甲状腺機能低下症およびCKDに伴う糖代謝異常やインスリン抵抗性の病態解明の一端となる可能性が示唆された。
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