研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)には、共通現象として間質線維化や嚢胞形成等の尿細管間質病変があるが、その機序は未解明な点が多い。この問題を解決するため、我々はNPHP1等の遺伝子変異により尿細管間質病変を呈する遺伝性腎疾患に注目した。これらは全く同じ遺伝子変異を有しながら重症度の個人差が大きいことから、重症度を制御する別の修飾遺伝子(modifier gene)の存在が疑われる。この修飾遺伝子がCKDの進行も制御する可能性があるが、その探索は従来の培養細胞や動物モデルでは困難であった。そこで本研究では、上記遺伝子に変異を持つiPS細胞を作製し、これらのiPS細胞から分化誘導して作製した腎臓オルガノイドを利用することで、CKDを増悪させる修飾遺伝子を同定することを目標とした。 平成31年度には、まず健健常者由来 iPS細胞を、京都大学iPS研究所樹立株の購入及び、センダイウイルスベクターを使用した健常ボランティアからの樹立により入手した。さらに、健常者由来iPS細胞から腎臓オルガノイドへの分化誘導についての条件検討を行った。また、腎臓オルガノイドを実際の病態解析に使用できるかどうかの検証として、腎毒性のある薬剤を投与してヒト成熟腎臓に類似した障害を観察できることを示した(米国腎臓学会にて学会発表、2018)。 令和2年度には、NPHP1に変異を持つiPS細胞をCRISPR-Cas9システムにより作製した。NPHP1変異の組織学的な表現型の解析も行った(Kidney International Reports, 2021)。また、レンチウイルスベクターによりfibronectin/α-SMAプロモーターで蛍光発色するレポーターを作製した。腎臓オルガノイド内部の細胞に対しde novoの遺伝子変異を起こさせるべく、内部の細胞全体にレンチウイルスベクターを感染させる手法も確立した。
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