研究課題/領域番号 |
19K17717
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤井 健太郎 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 共同研究員 (70626390)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 急性腎障害 / キサンチンオキシダーゼ阻害薬 / 虚血性腎症 / エネルギー代謝異常 / 糖尿病性腎臓病 / マスイメージング |
研究実績の概要 |
マスイメージング法に急速凍結法を用いることで、腎臓における代謝産物を半定量的に可視化し、腎臓の部位によって異なる代謝変容を俯瞰的に明らかにした。10分間の腎動脈クリップによる短期完全腎虚血により、腎全体でATPが低下し、腎皮質では約80%のATP低下を認めた。総アデニル酸は腎髄質では低下せず、腎皮質においてのみ低下した。10分間虚血後24時間の再灌流を行っても腎皮質における総アデニル酸とATPの低下は遷延し、酸化ストレスによる組織障害を伴わない腎機能低下を認めた。Febuxostatはxanthine oxidase阻害によりヌクレオシド代謝経路をせき止め、salvage pathwayを賦活化させる薬剤である。Febuxostatは虚血再灌流による腎障害は軽減させ、皮質を中心とした全腎のATPおよび総アデニル酸の回復が促進した。培養ヒト尿細管 (HK-2 細胞を無糖培地および1%低酸素下にて12時間培養(Oxygen glucose deprivation: OGD)後、通常培地にて16時間再酸素化を行い, ATP産生・尿細管細胞障害関連遺伝子発現を評価した。OGD群でATPの優位な低下と、尿細管細胞障害関連遺伝子の発現増加を認めたが、Febuxostatの添加によりATP産生は回復し遺伝子発現増加は抑制された。hypoxanthine phosphoribosyltransferase (HPRT)-1のknockdownにより、尿細管細胞におけるFebuxostatによるATPの回復促進効果は消失した。すなわちFebuxostatはsalvage pathwayを介したアデニル酸の産生促進によりATP再合成を増加させ、尿細管細胞保護効果を発揮すると考えられた。短時間虚血においては、FebuxostatはATP産生回復促進を介して腎保護効果を発揮する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Streptozotocin(STZ)誘導1型糖尿病モデルマウスにおいて、高血糖に伴う代謝変容が糖尿病性腎臓病を進展させるとの仮説のもと、メタボロームならびにマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析イメージング(MALDI-MI)を用いて、腎エネルギー代謝の変容を解析した。STZマウスでは、STZ投与後1週間で十分な血糖値の上昇が見られた。飲水量も大きな増加が見られ尿量も増加し、アルブミン尿を認めていた。腎メタボローム解析では、STZマウスでは著しく高血糖を示すにも関わらず、解糖系のGlucose-6-phosphate (G6P)からPhosphoenolpyruvic acid (PEP)までの中間代謝物の総和及びLactateの量に変化はなかった。TCA cycle中間体にも変化が見られなかった。核酸の生合成に関わるペントースリン酸経路も変化がなかった。その一方で、いくつかのアミノ酸で大きな変化が見られた。すなわちSTZマウスでは、正常血糖マウスと比較してグリシン、リシン、メチオニン、グルタミンが減少し、BCAA(イソロイシン、ロイシン、バリン)が、顕著に増加していた。BCAAは、腎尿細管におけるアミノ酸トランスポーター L-type amino acids transporter(LAT)1, 2ならびに、糸球体足細胞のLAT3により細胞内に取り込まれることから、STZマウスの腎皮質ではLAT1~3を介したBCAA取込が亢進していると考えられた。さらなる解析で、腎皮質のなかでも糸球体における有意なBCAA蓄積が示された。これらアミノ酸は、STZによるインスリン欠乏に伴い、筋肉の蛋白分解により供給されるものと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
足細胞に取り込まれたBCAAは、mTORC1活性化による細胞体の肥大と足突起の消失を引き起こす。その結果として糸球体濾過膜の機能を障害し、アルブミン尿を呈する。これらの結果は、LAT3特異的阻害薬や、足細胞におけるmTORC1の抑制が、糖尿病性腎臓病における新たな治療戦略となる可能性を示唆している。今後の研究で、LATの抑制が高血糖に伴う腎代謝変容と腎障害の進展を抑制するとの仮説のもと、STZマウスの腎障害進展におけるLATの効果を検討する。また、高蛋白食がSTZマウスの腎細胞代謝を変容させ、腎障害を進展させる可能性につき検討する。
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