多発性嚢胞腎におけるリンパ管新生の意義の解明と新規治療法開発を目的とした。ヒト臨床経過に近い多発性嚢胞腎マウスモデルとして、ICR系統を遺伝背景としたPcyマウスと、C57BL/6系統を背景としたJckマウスを用いた。リンパ管成長因子であるヒトVEGF-Cを発現するアデノウイルスベクター(AdVEGF-C)をマウスの静脈内に投与して腎臓でのリンパ管新生の誘導を試み、腎嚢胞形成抑制効果を解析した。正常C57BL/6マウスに5x10の8乗pfuのAdVEGF-Cを静脈内投与し、投与後4週まで血中VEGF-C濃度が有意に上昇していることを確認した。Pcyマウス、Jckマウスのタイムコース腎組織において生後8週の時点ですでに明らかな腎嚢胞形成が観察されており、生後4週の時点でウイルスベクター投与による治療介入を行った。コントロールベクターとしてβ-galactosidaseを発現するAdLacZを用いた。生後4週のJckマウスに5x10の8乗pfuのAdVEGF-CまたはAdLacZを投与したところ大多数のマウスが投与1週間以内に死亡したため、ウイルス投与量を1.0-2.5x10の8乗pfuに減量した。1.5x10の8乗pfu以上のAdVEGF-C投与量にて生後8週のサクリファイス時の血中VEGF-C濃度の上昇が確認されたが、腎重量/体重比、腎嚢胞形成、リンパ管発現のいずれにおいても、AdVEGF-C群とAdLacZ群との間に差はみられなかった。次に、同様に生後4週のPcyマウスに1.5-2.5x10の8乗pfuのAdVEGF-CまたはAdLacZを投与し、生後8週でサクリファイスしたが、腎重量/体重比、腎嚢胞形成、血清クレアチニンのいずれにおいても両群の間に差は見られなかった。しかし血中VEGF-C濃度上昇がほとんどみられなかったため、ウイルス投与量の再検討が必要と考えられた。
|