研究課題/領域番号 |
19K17730
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
川西 邦夫 筑波大学, 医学医療系, 助教 (00578750)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 後天性嚢胞腎随伴性腎細胞癌 / 後天性嚢胞腎 / 透析腎癌 / 糖鎖解析 / シアル酸 / Kdn |
研究実績の概要 |
我が国の透析患者数と透析治療年数の増加に伴い、透析患者に特異的に発生する腎細胞癌、後天性嚢胞腎随伴性腎細胞癌(acquired cystic disease associated RCC, ACD-RCC)の重要性が増している。ACD-RCCは多発する嚢胞に混在して発生し、造影CTで検出されにくい特徴を持つため、特異的な腫瘍マーカーが確立できればその診断に有用である。本課題では、腫瘍特異的な糖鎖構造がバイオマーカーとして応用されてきたことに着目し、レクチンアレイによる網羅的な糖鎖解析を行った。透析例の淡明細胞型腎細胞(clear cell RCC)と比較して、ACD-RCCで優位に増加する糖鎖構造を複数発見した。特に本課題の焦点であるシアル酸がACD-RCCで優位に発現することを発見しており、組織学的な解析においてもACD-RCC癌組織のシアル酸発現が確認できた。現在、質量解析により標的糖鎖構造とそのキャリア蛋白の同定を遂行中である。さらにClear cell RCC以外の組織型を含む多数症例での検証を目的とする新規国内共同研究を開始している。本研究の腎不全モデル作成に必要なヒト化シアル酸マウス(Cmah-/-)は希少なため、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校からの導入を予定していたが、COVID-19の影響により輸送開始が遅れていた。このため国内研究施設(藤田医科大学)から別系統のCmah-/-マウスの精子を譲り受け、体外受精により学内で再確立した。5/6腎摘を中心とする腎不全モデルと、腎細胞癌の化学発癌モデルを組み合わせた新規モデルマウス実験を開始し、現在長期観察中である。また、本課題の病理組織解析用に導入した低真空透過型顕微鏡による観察手法を、希少腎疾患研究や腎疾患モデルマウス研究での組織評価、特殊な癌細胞培養技術の細胞観察などに適応し複数の論文で報告している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筑波大学を含む国内主要6機関で構成されるTIAかけはし研究に採択され、筑波大学と産業技術総合研究所の共同研究体制を維持し、さらに新たな国内共同研究先(東京女子医科大学病院)との臨床研究に発展することができている。これまでにACD-RCCに特異的な糖鎖構造を複数発見する中で、標的糖鎖構造中にKdnが含まれているかの検証作業を開始できている。さらに本課題の基礎となった透析患者でのKdn蓄積を発見した研究や、ヒト抗Kdn抗体の発見と発生メカニズムを解明した研究を論文化できている。これらの実績に加え、本課題は研究開発ベンチャーの起業などを推進する産学連携ファンドに採択(2021年4月)されており、知財登録や社会実装に向けたより一層の研究促進が見込まれるため。
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今後の研究の推進方策 |
ACD-RCCの新規バイオマーカー開発を目指し、2021年4月に採択された産学連携強化ファンドのもと、ELISA系の確立を行う。ACD-RCCに特異的な糖鎖構造を認識するレクチンと、そのキャリア蛋白に対する特異抗体の絞り込みを予定する。選定したレクチンと特異抗体が病理診断に有用であるか多数症例の組織検体で検証を予定する。また、透析腎癌の発癌機構の解明を目指す腎不全モデルマウスの長期観察と解析を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の腎不全モデル作成に必要なヒト化シアル酸マウス(Cmah-/-)が大変希少であるため、当該予算は米国カリフォルニア大学サンディエゴ校Varki labからのCmah-/-マウスの導入を予定していたが、COVID-19の世界的拡大により、米国からのマウスの輸送と受け入れが困難となったため計画を中止した。代替となりうるヒト化シアル酸マウスを、国内研究施設(藤田医科大学)が保持していることから、同施設のマウスの輸送と筑波大学学内での樹立に向けた手続きを進めた。動物実験計画の承認とMTA締結を受け、2020年6月に体外受精に成功し、腎不全モデルや化学発癌モデルの作成を開始できている。米国からの輸送費用や再確立に必要なコストを抑えられた分、次年度の解析費用などに充当する予定である。
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