レニン-アンジオテンシン系(renin-angiotensin system: RAS)は血圧・体液の調節に重要である。腎臓の近位尿細管の管腔側膜に高発現するエンドサイトーシスレセプターのメガリンは、RASの中心的役割を担うアンジオテンシン(Ang)ペプチドの産生基質であるアンジオテンシノーゲン(AGT)の腎臓内への取り込みに関わるが、メガリンによる腎臓のRASの制御に関しては不明な点が多い。これまでの研究の中で、質量分析計によるAngペプチドの新規定量法を独自に開発し特許出願した(特願2017-128700)。本研究ではAngペプチドの新規定量法を用いて、近位尿細管特異的メガリンノックアウトマウスとそのコントロールマウスの腎臓・血漿・尿中のAngペプチドの定量評価を行い、さらにテレメトリー法による血圧測定、尿中Na+排泄など電解質の評価を行った。その結果、腎内RASには全身性RASとは独立した調節機構が存在し、メガリンをノックアウトすることによって腎内Ang-IIの上昇が抑制され、Ang-IIの作用に拮抗的に働く腎内Ang-(1-7)は上昇し、尿中Na+排泄が保たれるデータが得られた。令和2年から3年にかけてはメガリン依存性の腎内Ang-IIの変化が、細胞内シグナルMAPK/ERK経路の活性化に関与し、近位尿細管上皮細胞の管腔側に発現するNa+-H+ Exchanger-3の機能に影響を及ぼすことを明らかにした。また、表面プラズモン共鳴法を用いて、メガリンとAng-IIの結合にAng-IIタイプI受容体拮抗薬が拮抗することを見出した。さらに、アンジオテンシン変換酵素(ACE)、ACE2の腎臓内での発現、腎臓内への取り込みにメガリンが関連し、メガリンをノックアウトすることでACE/Ang-II< ACE2/Ang-(1-7)優位となり腎保護的に働くことが示唆された。
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