研究課題/領域番号 |
19K17739
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 慶太 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (00769507)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | p38 MAPK / ナトリウム利尿ペプチド / 腎臓 |
研究実績の概要 |
p38MAPK(以下p38)阻害がもたらす腎機能保護効果の機序を明らかにするために、p38のリン酸化部位の同定及び、近位尿細管特異的または全身薬剤誘導性p38-cKOマウスをそれぞれ作出し、各腎障害モデルでの変化について検討した。 近位尿細管p38-cKOマウスを用いた各腎障害モデルにおける検討では、急性腎障害モデルの虚血再灌流およびシスプラチン腎症において腎機能や組織学的な有意な変化は認められなかった。また、持続的なp38リン酸化亢進を示すアデニン腎症および片側尿管結紮でも、組織学的な変化は認められなかった。以上より、近位尿細管でのp38のリン酸化は腎障害への寄与が少ない可能性が示唆され、腎障害促進的に働きうるp38は近位尿細管以外の細胞で寄与が大きいと予想された。全身性cKOマウスはタモキシフェン投与により予想外の体重減少を認めた。脂肪細胞特異的p38-cKOで体重抑制がみられること報告されており、同様の機序が原因である可能性が示唆された。 アデニン腎症および片側尿管結紮では、p38のリン酸化は間質でも多数認められ、特にマクロファージマーカーのF4/80との共局在が多数認められた。すなわち、腎障害で認められる浸潤マクロファージにて、p38が病的機能を発揮しているという仮説を新たに立てることに至った。 我々はこれまでナトリウム利尿ペプチド系がp38に腎障害促進機能に拮抗しうることを示してきたため、全身に広く発現するGC-Bとのクロストークに着目している。GC-B-cKOマウスについては、前年度に近位尿細管及び全身性cKOマウスを作出し、これらを用いた実験やp38とのdouble KOマウス作出を試みたが、COVID-19流行に対する緊急事態制限等などによる動物実験施設の利用制限のため、前述のp38-cKOの検討を優先し同マウスの検討を一時中断する方針とせざるを得なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
p38-cKOマウスの作出および機能解析についての検討は予定通り進行している。p38阻害薬投与による腎障害改善効果についてはこれまで多く報告されおり、当初我々は、腎臓において主要構成細胞の一つであり腎障害でリン酸化が認められる近位尿細管のp38のリン酸化が腎障害に重要であるという仮設のものと、近位尿細管特異的cKOの作出・検討を行ってきた。近位尿細管におけるノックダウン効率はmRNA発現・免疫染色・ウェスタンブロットにて良好であることを確認したが、種々の腎疾患モデル・タイムコースを試したが近位尿細管特異的なp38ノックダウンによる腎機能・組織障害における変化を認めないことを明らかにした。これは既報になく新規の知見ではあるが、p38阻害による腎障害改善機序解明のためには新たなターゲットを設定する必要に迫られている。p38リン酸化シグナルは、上皮以外の間質にも多数認めるため、間質細胞が一つの候補と考えている。 また、p38の全身性遺伝的欠失が薬理学的阻害と同様の腎障害改善を示すかを確認するために、全身性薬剤誘導性p38-cKOマウスの作出も行っているが、タモキシフェン投与後の腎臓におけるノックダウン効率が悪く、タモキシフェンの高用量投与を行うと、投与後著明な体重低下を示すため、腎障害モデルの作成・解析に苦慮している。 p38とGC-Bのクロストークの検討をするために用いる予定のGC-B-cKOマウスについては、COVID-19流行による緊急事態制限などに伴う施設利用制限のため、一旦マウスの最低限個体数での維持を余儀なくされた。現在、利用制限が解除され、個体数を回復できつつあるため、GC-B cKOマウスでの腎障害・機能評価を再開している。
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今後の研究の推進方策 |
腎障害において、p38は上皮細胞を含め種々の細胞でリン酸化が亢進する。またp38阻害薬の投与は腎障害を軽減することも以前より知られている。しかし、我々の検討では、腎構成細胞の大きな一群である近位尿細管特異的にp38をノックダウンしても腎障害への有意な影響がないことを見いだした。一方で、p38のリン酸化は間質マクロファージにおいても多数認められていることも確認した。そこで、腎障害で浸潤やp38のリン酸化が認められ、p38のノックダウンで敗血症モデルの軽減作用を発揮していることが報告されているマクロファージ(Kang, et al J Immunol 2008)に着目することにした。また、GC-BのリガンドであるCNPの投与は、腎や肺障害モデルにおいてマクロファージの浸潤抑制を含めた軽減効果が知られており、マクロファージにおけるナトリウム利尿ペプチド作用も示唆される。すなわち、当初の目的であるナトリウム利尿ペプチドとp38のクロストークの新たな場の候補ではないかと考えるに至った。そこでマクロファージ特異的p38-cKOマウスを作出中であり、腎障害におけるマクロファージのp38の寄与について比較・検討を進める予定である。このように、全身性・近位尿細管特異的・マクロファージ特異的の様々なp38-cKOマウスを使った多面的ノックアウト実験を行うことで、病態生理上で重要なp38の機能箇所を明らかにしたいと考えている。 同様に、GC-Bについてもマクロファージ特異的cKOの作出を予定しているが、今後これらを組み合わせた、p38-GC-B doubule KOマウスの作出・検討を介して、p38-GC-Bクロストークの意義や場の解明も進めていきたい。
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