前年度の実験では、近位尿細管オートファジー不全細胞自体は、糖産生能が低下し糖新生が低下したものの、野生型細胞とオートファジー不全細胞の共培養で、糖産生の上昇がみられていた。その機序としてオートファジー不全細胞から産生される代謝物を測定したところ、糖新生の基質として知られている乳酸産生が上昇していることが判明した。この乳酸産生は、虚血状態ではより顕著に上昇することも判明した。 以上から、乳酸自体が基質のみならず、糖新生因子の発現に影響する可能性を考え、マウス生体から採取した尿細管細胞を、より尿細管機能を残存させるべく短時間Liberase処理を行い樹立したPrimary細胞に、乳酸負荷を行ったところ、乳酸によって糖新生因子の蛋白発現およびRNA量が明らかに増加することが判明した。この変化は、乳酸トランスポーター阻害やオートファジー阻害薬の投与によって発現が低下することも判明した。 以上から、乳酸は糖新生の基質としてのみならず、腎糖新生の遺伝子発現に強くかかわっていた。長年原因不明と考えられていた糖尿病の腎尿細管細胞での糖新生上昇の機序のひとつとして、糖尿病ではオートファジー不全がひきおこされることで乳酸代謝に変化が生じ、それにより糖尿病患者の腎尿細管では糖新生因子が亢進する機序が新たに判明した。
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