研究課題
透析患者の心血管系イベントの中で、脳内出血を起こし長崎大学病院に入院加療を行った症例と、長崎市内における透析患者の約1/3に相当する症例の加療を行っている長崎腎病院の維持透析患者を比較した。脳出血を発症した症例約100例について検討を行ったところ、血清カルシウムが高値である症例の方が、脳出血のリスクが高く、血腫の大きさにも関連し、発症後の生命予後が悪化していることが判明した。これは一般人口における脳出血患者で認められる傾向である低カルシウム血症が脳出血の予後に悪影響を及ぼすという内容とは逆の結果であった。一方で低カルシウム血症の患者の方が、脳出血発症前に血圧上昇を来すことが明らかになった。これら二つの事実についてBMC Nephrol. 2019 Jun 7;20(1):210.ならびにClin Exp Nephrol. 2020 May;24(5):465-473で結果を発表した。さらに、長崎腎病院における透析患者の生命予後について検討を行ったところ、スタチンを服用している症例で、有意にリスクの減少がみられることが判明し、その内容についてもPLoS One. 2019 Oct 22;14(10):e0224111. で発表した。なお、長崎市内全体の透析患者のコホートのデータベースについては現在も作成を進めており、より大きな集団における心血管イベントのリスク因子について今後検討予定である。さらに、脳出血を発症後の集団の予後については、長崎市内の維持透析施設での追跡調査を行っており、脳出血の重症度が高い症例ほど肺炎等の感染症で死亡するリスクが上昇することが明らかになっている。この検討内容については、現在論文化を進めている。
3: やや遅れている
長崎大学病院や長崎みなとメディカルセンターで入院した血液透析患者のデータベースは予定通り進んでいるが、長崎市内の血液透析施設における維持透析患者のデータベース作成は、1年が経過した現在においてもまだ完成しておらず、当初の予定よりもやや遅れていることは否めない。また、上記急性期病院2施設を退院後の患者の追跡についても脳梗塞や脳出血といった脳卒中症例については予定通り進んでいるが、狭心症や心筋梗塞についての検討にはまだ時間がかかっている。さらに、大動脈弁狭窄症の発症リスク因子についての検討は一部のリスク因子の同定ができてきているものの、患者背景等についての調整に時間がかかることが予想される。現在日本透析医学会での発表に向けてデータの解析を進めている段階である。
長崎市内での維持透析患者のコホート作成をまずは優先しつつ、すでに収集が終了している長崎大学病院における心血管イベントで入院した症例の背景因子についての検討も併せて行っていく。
当初オープンアクセスのジャーナルに投稿していた論文が、最終的にオープンアクセスではない雑誌にアクセプトとなったことにより、その雑誌の論文の掲載費用として前倒し請求した費用を使用することがなくなったため、次年度使用が生じた。次年度以降は当初予定していた人件費や物品費における使用、ならびに旅費等への使用を予定している。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Clin Exp Nephrol.
巻: 24 ページ: 465-473
10.1007/s10157-020-01846-3.
BMC Nephrol.
巻: 20 ページ: 210
10.1186/s12882-019-1400-4.
PLoS One.
巻: 14 ページ: e0224111
10.1371/journal.pone.0224111.