本研究の目的は、真菌排除における表皮細胞の役割を明らかにすることである。本研究では、ギャップジャンクションの構成蛋白であるコネキシン26をコードするGJB2の変異によって発症するKID症候群患者にしばしば起こる、慢性皮膚カンジダ感染に着目した。 KID症候群では、全身のGJB2の変異がなぜ慢性の真菌感染につながるのか、全く不明である。KID症候群の患者のカンジダ感染が起こり、抗真菌薬により治癒した部位に、KID症候群ではない健常者の皮膚のような斑が多数出現していた。この所見から、体細胞突然変異が生じた皮膚上皮細胞が増殖し定着していることが示唆されたため、正常化したような部位から5箇所(*1)、カンジダ感染があったものの以前と同様のKID症候群の皮膚症状を示す部位から5箇所(*2)、カンジダ感染の既往のない部位から2箇所(*3)、皮膚生検を行い、表皮を分離した後に、whole-exome sequencingを行った。 すると、*1のすべてのサンプルで、GJB2に新たな、サンプルごとに異なる体細胞突然変異が起こった、皮膚上皮細胞のクローンの拡大が同定された。一方、*2でも体細胞突然変異を有するクローンの拡大が同定されたものの、サンプル内でそのクローン占める割合は*1よりも低く、またGJB2には1つのサンプルを除いて体細胞突然変異を認めなかった。さらに、*3では体細胞突然変異を有するクローンの拡大は見いだされなかった。 以上の結果から、KID症候群患者におけるカンジダ感染は、少なくともGJB2の体細胞突然変異を持つクローンの、選択圧として働くことが強く示唆された。 最終年度には、上記の体細胞変異が、GJB2によってコードされるコネキシン26が形成するチャネルの機能にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするために必要な、実験系の構築を行った。具体的には、福井大学の老木教授との共同研究のもと、無細胞系におけるチャネル形成および電流測定の系の立ち上げを行った。
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