本研究は、細胞外シグナルを受容する「アンテナ」として機能する一次繊毛による、表皮樹状細胞(DC)での増殖促進制御機構を解明し、ヒト表皮の恒常性維持機構を理解することを目的としている。当研究を始めるまでに、申請者はヒトDCの一次繊毛が細胞成熟に応じて減少すること、またアトピー性皮膚炎(AD)の病変部において、一次繊毛をもつ未成熟DCが健康組織と比較して顕著に増加していることを見出していた。しかし、DCの成熟や増殖を制御する分子機構は明らかではないため、当該年度は一次繊毛を介した増殖シグナルの同定を試みた。
血小板由来成長因子受容体PDGFRalphaは一次繊毛に強く局在するチロシンキナーゼ型受容体であり、細胞の増殖を強く誘導する。初代DCをPDGFRalphaのリガンドであるPDGF-AAのみで刺激しても細胞増殖は有意に促進されなかったが、一次繊毛の形成を促進するGM-CSFと共刺激すると、細胞増殖能が相乗的に促進された。また、この相乗的な増殖促進効果は、一次繊毛の形成を阻害するsiRNAであるsiIFT88の事前処理によりキャンセルされた。このことから、一次繊毛上のPDGFRalphaはDCの増殖を制御することが示唆された。
更にPDGFRalphaシグナルの強弱がアレルギー抗原の有無により変化するのか検討するために、ADをはじめとするアレルギーを誘発することで知られるダニ抗原と、免疫賦活物質(アジュバント)で初代DCや表皮を構成するケラチノサイト細胞を刺激し、PDGFRalpha、PDGF-A発現量の変化を解析した。しかし、どの刺激物質を投与してもPDGFRalphaの発現量は変化しなかった。このことより、PDGFRalphaそのものの発現量の変化ではなく、一次繊毛の形成がDCの増殖制御に関わる可能性が示唆された。
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