研究実績の概要 |
本研究課題は、ヒトでの体幹と足底皮膚での遺伝子発現の違いを、多数検体でのトランスクリプトーム解析を網羅的に統計解析することで、ヒトの皮膚の各部位に様々な皮膚の形態の違いを明らかにすることを目標とした。 これまでに、足底の皮膚の獲得免疫と自然免疫の特徴に着目し、ランゲルハンス細胞の細胞密度が、足底では、躯幹の10-20分の1に減少していることを、CD1aやランゲリン遺伝子の発現の減少より理解した。自然免疫を担う抗菌ペプチドであるS100A8/S100A9や、Dermcidinは、足底では体幹より10倍以上と高発現していた。皮膚マイクロバイオームの部位による差異を説明する事象であると思われる。同じトランスクリプトームデータより、皮膚の常在菌であるマイクロバイオームの違いを解析し、自然免疫ペプチドの相違に呼応する常在菌層の違いを決定した。 形態学的に、掌蹠の皮膚の厚さ、中でも角層の厚さを説明しうる特異的な蛋白発現としては、体幹と足底の皮膚では15種の KLKsのうち、KLKs活性化カスケードのイニシエーターである KLK5, 7, 8, 9, 11の5種類が高発現していた。KLKsの発現は足底皮膚では体幹部と比較し総体的に低下していた。SERPINB3, B4, B12,B13は体幹よりも足底で数倍~10数倍高発現していることが確認できた。これらのKLK, SERPIN, SPINK蛋白の発現の組み合わせにより、躯幹型のバスケット型の角層、掌蹠型の厚い稠密な角層などが形成されると考えた。 これまでに理解の及んでいない、足底の有棘層の角化の方向性を誘導する因子の解明のために、組織全体のトランスクリプトーム解析を越え、同一個体での足底と躯幹のシングルセルRNAシークエンス解析を行うのが最適と考えた。そこでシングルセル解析用のシステムを講座に準備し、プロトコールを確立するとともに、マウス、ラットの皮膚での解析のための実験動物の研究申請の承認を受けた。
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