研究実績の概要 |
我々は皮膚毛包のうち、バルジ領域と脂腺付着部の間に分布しているnestin陽性、ケラチン15陰性の毛包幹細胞を発見し、神経細胞・グリア細 胞・心筋細胞・角化細胞等に分化することを明らかにした。毛包幹細胞を用いた再生医療は、倫理面や拒絶反応の問題がなく、早期の臨床応用 が期待される。本研究ではnestin陽性毛包幹細胞が特に神経細胞、グリア細胞に多く分化しやすい傾向を利用し、末梢神経や脊髄といった神経 系への移植を行うことで構造、機能の回復を確認することを目標としている。 我々はまず、マウスの脊髄損傷急性期に対し毛包幹細胞の移植実験を行い、構造の再生、運動機能の改善を証明することができた(Obara K, et al.Stem Cell Rev Rep. 2019 :15;59-66.)。またこの結果を11th World Congress for Hair Research (WCHR2019), 2019, Barcelona (poster discussion)にて報告している。さらに現在、マウスの脊髄損傷慢性期初期に対し毛包幹細胞移植の実験をすすめており、こちらも急性期同様構造の再生、運動機能の改善を証明することができた。こちらは現在論文の投稿準備中である。 さて、このような再生医療を実現する上で、幹細胞を保存する方法の確立が急務である。例えば全身状態が悪く幹細胞の採取が困難であったり、幹細胞の採取・培養といった手順に一定の期間要するため早期移植がかなわないなどといった弊害が生じる可能性があるからである。よって我々は毛包幹細胞を凍結保存する方法を立証し、保存後も多分化能を損なわないことを確認した(Obara K, et al.Sci Rep. 2019;9 :9326.)。これによって将来的に「毛包バンク」の設立につながることが期待される。
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