研究実績の概要 |
我々は毛包のうち、バルジ領域と脂腺付着部の間に分布しているネスチン陽性、ケラチン15陰性の毛包幹細胞を発見し、神経細胞・グリア細胞・心筋細胞・角化細胞等に分化することを明らかにした。毛包幹細胞を用いた再生医療は、倫理面や拒絶反応の問題がなく、早期の臨床応用が期待される。本研究ではネスチン陽性毛包幹細胞が特に神経細胞、グリア細胞に多く分化しやすい傾向を利用し、末梢神経や脊髄,大脳といった神経系への移植を行うことで構造、機能の回復を確認することを目標とする。 我々は過去脊髄損傷急性期のマウスモデルに対し毛包幹細胞を移植することで脊髄の構造,機能の回復を証明した(K. Obara, et al. Stem Cell Reviews and Reports. 2019;15:59-66.)。一方で,実際の臨床では脊髄損傷後急性期のうちに幹細胞移植を用いた再生医療を試みる時間的猶予は細胞の抽出や培養期間などの面を含め,限られることも事実である。そこから,今回我々は脊髄損傷慢性期モデルマウスを作成し,毛包幹細胞を移植する実験を試みた。結果,急性期と同様,損傷脊髄の構造,機能の回復を証明することに成功した(K. Obara, et al. PLoS One. 2022;17:e0262755.)。次なる目標として,現在脳出血モデルマウスを作成し毛包幹細胞移植を行うことで,構造や機能の回復が見込めるか検討を進めている段階である。 今後最終的に我々は、ヒトの損傷神経に対する毛包幹細胞自家移植を成功させることで神経再生医療の実現を目標にする。
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