研究課題
アレルギー疾患の罹患率は年々増加傾向にあり、その治療法及び予防法の開発は急務である。なかでもアトピー性皮膚炎(AD)は増悪と寛解を繰り返す皮膚疾患であり、その痒みは様々な遺伝及び環境因子が絡み合う複雑な機序で発症し、抗ヒスタミン薬が奏功し難い『難治性の痒み』を伴う慢性炎症性皮膚疾患である。これまで申請者の研究グループでは、ADにおける難治性痒みの原因の一つが表皮内への知覚神経線維の侵入であることを見出した。この神経線維の稠密化は、外部からの痒み刺激や炎症局所のケラチノサイトや免疫細胞が産生する起痒物質に対する受容の増加につながり、痒み過敏や増強に関与することが推定される。申請者はこれまで、かゆみへの関与が未だ不明瞭である神経細胞と免疫細胞の相互作用に着眼し、かゆみにおける役割を解明するために、ADモデルマウス及び患者皮膚を用いて研究を行ってきた。これまでの研究成果により、AD皮膚における好酸球浸潤が認められ、神経細胞に近接することが明らかとなった。このことからAD炎症局所において、神経細胞と好酸球が相互に作用していることが示唆されたが、その詳細メカニズムは依然不明であった。そこで、本研究では神経細胞と好酸球との共培養系を立ち上げ、相互作用の観点から、ADにおける痒みの発症メカニズムの解明と新たな治療及び予防法の開発を目的とし、研究を行った。令和元年度は、マウス後根神経節細胞 (DRG) とマウス骨髄由来好酸球(BMEos)の共培養系及びヒトinduced pluripotent stem (iPS) 細胞由来神経細胞とヒト末梢血由来好酸球の共培養系の条件検討を行った。次年度は引き続きこれら共培養系を用いて更なる解析し、学会発表及び論文化する予定である。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度の研究では、DRGとBMEos及びiPS由来末梢神経細胞と好酸球の共培養系を立ち上げることに成功した。その結果、好酸球と共培養した神経細胞は、退縮する傾向を突き止めた。これらの研究成果の一部は、2019年6月に愛知県名古屋市で開催された第118回 日本皮膚科学会総会で発表し、この発表が評価され、第15回 Tokyo Scientific Forum for Atopic Dermatitis and Psoriasis (TAP)にて招待講演を行った。ほぼ予定通りに研究は進行していると考えられる。
上記にあるように、申請者はAD炎症局所において神経線維と好酸球が近接していることを明らかにし、さらに好酸球との共培養により神経細胞は退縮することを明らかにした。しかしながら、この詳細メカニズムは未だ不明である。そこで今後は、神経細胞と好酸球の作用点について着目し、新たなかゆみ調節メカニズムを解明すると共に、ADの病態に寄与する好酸球関連因子・非関連因子についても解析を行う。
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Scientific Reports
巻: 10 ページ: 4360
10.1038/s41598-020-60036-z
Journal of Investigative Dermatology
巻: S0022-202X(20) ページ: 30004-X
https://doi.org/10.1016/j.jid.2020.01.001