研究実績の概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)は成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスである。ATLに対する治療薬として亜ヒ酸が注目されている。亜ヒ酸(As2O3)は、急性前骨髄性白血病(APL)の有効な治療薬である。近年、ATLに対しても、亜ヒ酸併用療法の臨床試験が行われ、高い有効性が示された(Blood, 2009)。しかしながら、亜ヒ酸感受性には、患者間の個人差が観察された。より効果的な治療法へと発展させるためには、亜ヒ酸に対するATL患者の感受性を制御する分子機構の解明が必須である。申請者の所属研究室では、亜ヒ酸がATL細胞に活性酸素種(ROS)の産生を昂進させ、アポトーシスを誘導することを明らかにした。また、HTLV-1感染細胞の発がんに関わる宿主因子としてMAGI-1(Membrane Associated Guanylate Kinase, WW And PDZ Domain Containing 1)を同定した。MAGI-1は癌抑制遺伝子PTEN(phosphatase and tensine homolog)と結合し、癌遺伝子AKTの活性化を抑制する(2013, Mol Cell)。MAGI-1が、亜ヒ酸に対するATL細胞の感受性およびATLの発症において重要な役割を果たすことを明らかにする。HTLV-1のガン蛋白質Taxは、MAGI-1と結合しその機能を阻害する。解析から、TaxとMAGI-1は相互に機能阻害を行う関係であることが判った。これらを踏まえ、ATL患者由来の細胞を用いて、亜ヒ酸感受性を決定する分子機序を解析している。
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