研究課題/領域番号 |
19K17828
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
新井 康之 京都大学, 医学研究科, 助教 (10826564)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腸管細菌叢 / 移植片対宿主病 / 骨髄移植 |
研究実績の概要 |
本研究は、①造血器腫瘍に対する骨髄移植後の腸内細菌叢の採取と同定、②AIを用いた機械学習による腸内細菌叢の分類と、移植後臨床データベースとの融合と解析、③マウス実験モデルでの同様の検討と生菌製剤を用いた予防実験、およびそれを踏まえたヒト臨床試験の準備、に分けられる。 ①の腸内細菌叢採取に関しては、移植前処置開始から2ヶ月に渡り、患者便検体を毎週採取する。細菌に特異的な遺伝子である16SリボゾームRNAコード遺伝子の塩基配列を、次世代シーケンサで決定する。このメタゲノム解析により、検体に含まれる腸内細菌叢の構成を同定し、各患者でdysbiosisを時系列に沿って解析している。 検体採取は順調に進行し、これまでに合計21患者を対象とし、100サンプル以上を検討した。予定したプロトコールによって、患者からの同意取得、検体の採取、院内検査室への搬送、解析研究室への輸送、検体の保存、次世代シーケンスを用いた測定、コンピュータを用いた解析には大きな問題は発生せず、予定通り進捗している。結果は、属レベルまでの細菌分類が可能であった。これまでの結果を解析したところ、Shannon index(細菌叢の多様性を反映)は、移植前に最高値を記録し、その後、移植後21日目で最低値を取った後、徐々に改善することが分かった。Chao1 indexも同様の経過を経ていた。さらに詳細に解析すると、ShannonおよびChao1 indexは、より強い前処置である、骨髄破壊的前処置を受けた患者でより大きく低下することが分かった。また、腸管細菌叢の多様性喪失(dysbiosis)は、腸管内の残存抗生剤濃度と関連することが分かった。とりわけ、メロペネムやピペラシリンは濃度依存的な関連性が判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、現時点で患者検体採取が完了し、メタゲノム解析中という段階にある。実際の進捗状況と合致しており、上記の判断とした。ただし、2020年初頭よりのCOVID-19感染症の蔓延により、2021年度の解析準備にやや遅れが生じており、今後の進捗が遅れる可能性はある。
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今後の研究の推進方策 |
次のステップとして、今回得られる膨大な量のメタゲノム解析結果から、AIを用いて共通点を見いだすことで、層別化する予定である。この結果を、同種移植の臨床データベースと融合させる。前処置や抗生剤使用などの移植前パラメータ、腸内細菌叢dysbiosis、さらにはGVHD発症イベントの間で、相関関係を見つけ、バイオマーカーとして確立する。これにより、ヒトでの腸管GVHDリスクが低い腸内細菌叢組成を同定することが今後の直近の方針である。 本研究は、腸管GVHDのバイオマーカーと予防法の確立とともに、腸内細菌叢やDysbiosisがもつ生物学的意義を解明する上で大きな情報を与えることが可能である。また、次世代シーケンスとAIという、情報工学における近年の大きなブレイクスルーとなった技術を組み合わせる手法は、今後の同様の研究においても、広く応用可能である。このような新しい観点から、難治性造血器腫瘍の予後改善を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年初頭よりのCOVID-19感染症の蔓延により、新規解析機器の導入を延期することになり、予定していた物品費の支出がなくなった。また、複数の学会が中止になったことより、予定していた旅費の支出がなくなった。さらには、一部の解析を延期したため、それに必要な人件費・謝金についての支出がなくなった。そのため、全体としての支出が予定より抑制され、次年度への繰り越し資金が発生した。これに関しては、2021年度に状況が正常化すれば予定通りに使用する予定である。
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